あなたに微笑む



「ゆ、許してくれよ!あんたを狙っていた訳じゃないんだ!本当だぜ?」

「……、」


お手上げとでも言うように両手を上げて顔を覗かせたのは、髪の毛がぱっと目立つような明るい色をした青年であった。
どことなく愛嬌のある顔をしていて、年若く見えるが、身に纏う鎧は重厚でいかめしい。
遠呂智軍内に、このような鎧を着た男は居ない。
ならば、彼は敵だ。
悠生は動揺を見せないようにつとめ、ぎりぎりと弓を鳴らし、精一杯の威嚇をする。


「違うんだって!いや、あのな、綺麗だなって思って…さ、どうしても気になったから、此処まで来たんだ」

「あなたも、桜の花を探しに来たんですか?」

「桜?いやいやいや、確かに綺麗な花だけど…」


よくよく見れば、青年は武器を持っていない。
暗器でも隠しているのかもしれないが、人の良さそうな青年に対して、このまま話を聞かないで攻撃をするのは哀れに思い、悠生は十分な間合いをとった後、弓から手を離した。
当然、悠生の手を離れた弓は、光の粒となって消えてしまう。
青年はその輝きを見て、何故か嬉しそうに笑った。


「そっか、あんた、この花を見に来たのか。よく見付けたよなぁ。こんな戦場で、他の誰も目に止めないのに」

「……、」

「あんた、さっきも弓を持っていただろ。綺麗な光を振り撒いてさ、しかも誰も殺さないで戦ってた。俺の大事な仲間も、大した怪我をしなかった。だから、あんたと話をしてみたくなったんだ」


さっき、とは…戦場で彼と擦れ違っていたのかもしれないが、皆に着いていくことが精一杯な悠生は、たった一人の敵兵のことを覚えていられない。
それに、褒められることは間違っていると思う。
悠生はあえて戦いを避け、恐怖から逃げ出しているだけなのだ。


「格好悪い、です。人も殺せないくせに、武器を持って…、本当は、戦場に立つ資格だって無いのに…」

「いや…格好悪いなら俺もそうだ。臆病だから、こんな重たい鎧を着ている。だけどあんたは優しい奴だよ。あんたが遠呂智軍に従っているのは本意じゃないってことぐらい、俺にだって分かる」


悠生はいぶかしげに青年を見つめた。
彼は悠生の弓を"綺麗"だと言ったのである。
そして、仲間の命を奪わなかったことに感謝をしていると。


「あなたのお名前は?教えてほしいです」


敵を相手に、悠生は名を知りたいと願う。
自分は名乗るつもりも無いが、不思議なことをいう、彼の名を知りたくなったのだ。
名を聞かれ、青年はびくりとしたようだが、苦笑しながら目線をさ迷わせた。


 

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