無愛想なご挨拶
風魔小太郎に抱きかかえられるという奇妙な状況下にあった悠生は、そろそろ下ろしてもらいたいと口を開こうとしたが、ねねが遮るようにして小太郎の名を呼んだ。
「小太郎、あんたもあたしと三成のところへ来てくれるんだろう?」
「クク…我は風…風はとどまることをしない…」
「じゃあ、悠生を下ろしてくれるかい?あんた、そのまま連れていこうなんて考えていないだろうね?」
そんなの許さないよ!とねねが溜め息混じりに指摘すると、小太郎はくすくすと笑い、悠生の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。
冷たい吐息が吹き付けられると、背に震えが走り、ぞくりとしてしまう。
「うぬの周りには混沌が溢れている…我は風となり混沌を世に広めよう…混沌こそ我が求めし…」
「こら小太郎!いくら口癖でも物騒な言葉ばかり口にするものじゃないよ!」
「……、」
混沌について熱く語り、ねねの小言を聞き流した小太郎は、悠生を地に下ろすと、霧のように一瞬で姿を消してしまった。
小太郎との触れ合いがいちいち心臓に悪かったためか、すぐに立ち上がることが出来ない。
へたりこんだままの悠生に、難しそうな顔をした三成が「大丈夫か?」と声をかけながら手を差し出してくる。
三成の気遣いに悠生は嬉しくなり、少し疲れてはいたが笑顔で礼を言って、彼の手を握った。
「おねね様!どうして三成に従うのですか!?」
「清正の言う通りっすよ!その頭デッカチは秀吉様を裏切って遠呂智に従っているのに、おねね様まで遠呂智軍に加わるなんて…!」
静けさを取り戻しつつあった本陣に、異論を訴える男二人の声が響き渡る。
彼らは本陣の門を守っていた、秀吉が可愛がった子飼いとして名の知れた武将、加藤清正と福島正則であった。
悠生がちらりと三成の顔を見ると、彼はぱっと手を離し、忌ま忌ましいといった表情で旧知である二人を見ていた。
「文句があるなら貴様達は早急に立ち去るが良い。俺はおねね様にだけ来てもらえれば良いのだ」
「あぁ!?三成、おねね様を独り占めする気か!?」
「馬鹿は勘違いも甚だしいな。元より俺の考えが通じる相手とは思っていないが」
いちいち鼻についた物言いをする三成に、短気な正則が我慢出来るはずがない。
顔を真っ赤にして三成に殴りかかろうとする正則だが、ねねは両者の間に入って制止する。
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