誠実な愛言葉



「悠生殿はいったい何処でそのような知識を?」

「お姉ちゃんが、可愛い花が好きで教えてもらったんです。でも僕は、特別に興味があった訳じゃなくて…かっこいい言葉だけしか覚えていないんです」


まさか彼の姉に関わることだとは思っておらず、趙雲は何も考えずに質問したことを後悔した。
悠生と共に暮らしていた美雪という娘は、山賊に村を滅ぼされた際に亡くなってしまったのだから。
事情を知る阿斗も僅かに眉をひそめたが、悠生がどこか懐かしそうに笑っていたため、安心したようである。


「…さて、さっさと文を書くとしょう。今日はまだ一つ習い事を控えているからな」

「そっか、急がないと!」


隣り合って仲良く文を書き始めた二人の姿を見ても、趙雲は暫し、やり切れない想いを持て余していた。

悠生はあまり、自分の過去を語ろうとしない。
美雪が実姉ではなく、彼女が行き倒れていた身寄りの無い悠生を可哀相と思い、世話をしていたこと…趙雲とて、悠生のことを詳しくは知らないのだ。


(いつか…全てを話してくれればそれで良いと思っていたが…なかなかに難しそうだな)


阿斗の習い事のため、趙雲と悠生は彼の部屋から退室した。
趙雲の手には先程二人が書いた文があり、これから劉備の元へと届けるのである。


「宜しくお願いします、趙雲どの」


頭を下げる悠生は、変わらずに子供らしい笑みを見せてくれる。
本当は辛い想いをしているのではないか。
美雪は、悠生にとってたった一人の家族であったはずなのだ。
もう会えない人のことを思い出し、悲しみを感じずにいられるものだろうか。


「悠生殿。私にも何か…花の言葉を教えてくれないか?」


思わず口にしたその台詞は、もしかしたら更に彼を苦しめるものかもしれない。
だが、嫌な顔もせずに悠生は頷いてくれた。
どちらかと言えば、心なしか嬉しそうだった。


悠生と中庭に出た趙雲は、花壇に咲く色とりどりの花を見て、どの花の意味を尋ねようかと思案していたが、悠生が突然、あっと声を上げる。


 

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