誠実な愛言葉



ふわりと、強い芳香が部屋を満たす。
卓上に置かれた花瓶には、真っ白な大輪の花…美しい牡丹が飾られている。
阿斗が昔から、こういった花の香りを好いていないことは趙雲も知っていたが、これは劉備からの贈り物であり、勝手に片付ける訳にもいかなかった。


「劉備殿は、阿斗様のお部屋にも美しい牡丹を飾ってほしいと望んでおられました」

「だが子龍、父上はそのようなことで私が喜ぶとでも思っていらっしゃるのか?」


牡丹の独特な香りは強烈で、不快感をあらわにする阿斗だったが…、隣で花を眺めていた悠生は、にこりと笑って言った。


「でも、凄く綺麗だよ?匂いはちょっときついけど…窓を開けておけば良いよね?」

「悠生が気に入ったと言うなら…私も我慢しよう」

「じゃあ、劉備さまにお礼を言わなくちゃ。でも、直接会うのは緊張しちゃうし…」


見て分かる通り、阿斗は悠生に弱い。
悠生が喜ぶなら、どんなに煩わしいことでも受け入れてしまう…それほどに悠生は大きな存在となっている。
劉備に礼を言うつもりなど無かったであろう阿斗も、悠生が緊張してしまうと呟けば、ならば一緒に文を書いて持たせようと自ら提案するのだ。
これまでの阿斗には考えられない行動に趙雲も驚くも、阿斗から礼の文を貰えば劉備も泣いて喜ぶだろうと…、悠生に感謝してしまいたくなる。


「ところで、牡丹にも何か言葉があるのか?桃の花のように」

「えっと…牡丹は確か…"王者の風格"だったかな?それっぽいよね。花の王様って感じがするし」

「ふむ…やはり私には過ぎたる花だな。しかし、父上にはお似合いかもしれん」


自嘲と共に皮肉めいた笑みを浮かべる阿斗に、悠生は少し困っているようだった。
花の言葉…花に意味が込められていることなど知らなかった趙雲は、彼の持つ知識に感心しながらも、質問を投げかける。


 

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