変わらぬ心を追い続け



孫呉が、遠呂智に屈した。
そう知らされた時、甘寧は嘆くどころか胸が躍った。
重傷を負ってはいたものの、傷の回復は早く、それ以上に甘寧は呉軍の猛将達を相手に本気の戦が出来ることを喜んだ。
しかも、現在は武勇名高き孫策が呉軍を率いていると言うのだから、戦う価値があるというものだ。
甘寧は凌統と共に陸遜に従いながら、孫策軍と遭遇する日を待ち侘びていた。

その一方で、甘寧は合肥で再会出来なかった落涙…咲良のことを、一時的にでも忘れようとしていた。
敵の手に落ちた咲良を救うことが出来ず、彼女の弟である黄悠の願いを叶えることが出来なかった事実は変わらない。
あの後、遠呂智軍に連れ去られた黄悠の気持ちを思えば、甘寧は己の不甲斐なさに打ちのめされそうになるばかりだった。




遠呂智と妲己に従う孫策との遭遇はすぐ現実となったが、戦には敗北し、しかも頼りであった陸遜と引き離される事態となってしまった。
孫策はかつての仲間が相手でも容赦無く攻め立て、凌統と命からがら逃げ出した甘寧は反乱軍が守備していた小谷城へと辿り着く。
小数の兵を率いて小谷城を護っていたのは、星彩と言う美しく若い娘であった。
年の頃は咲良と同じぐらいであろうか、だがその性格は似ても似つかない、冷たい雰囲気の女である。

彼女は重要拠点として小谷城の守備を任されていたようだが、行く宛てのなかった甘寧達が、何としても敵に抗おうと強い決意を秘めた星彩に従おうと決めたその日に、小谷城が遠呂智軍…またもや孫策の襲撃を受ける。
孫策殿もしつこいっての、と凌統は愚痴を漏らすも、甘寧は今回こそ孫策を打ち破ろうと気合いを入れていたが、総大将である星彩が待ったをかけた。


「"軽はずみな行動は許さない"、だってよ!あの女、何様だ!?独りのくせに偉そうにしやがって!」

「そう言うなよ。あのねえちゃんも必死だぜ」


星彩は初対面に程近い甘寧と凌統に、守備に徹し、決して勝手な判断で動かぬよう指示を出すと、自分は本丸の守備に戻っていた。
凌統は女の身で戦う星彩を気遣うが、年下の女に命令されることが気に入らない上に、行動を制限されたことに苛立った甘寧はチッと舌を打つ。


「おい凌統、今度は負けるんじゃねえぞ!」

「はっ、その言葉、そのままお返ししてやるよ」


鼻を鳴らし、不敵な笑みを浮かべる凌統に、そうでなければ張り合いが無いと甘寧も笑った。
まさか陸遜に続き凌統とも離れ離れになるなど、この時の甘寧は想像もしなかった。


 

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