心に秘めた熱情




かきん!と金属のぶつかる音が響く。
同時に、持ち主の手を離れて地に突き刺さる細身の剣。
それは星彩の一撃を受けた阿斗のものであった。

今日の阿斗の武術の師である星彩は、やけに厳しい表情をしていた。
彼女の話によると、最近の阿斗はまるでやる気が無いという。
「しっかりしてください」と説得され、渋々と武器を持った阿斗だが、何の気まぐれか悠生を鍛練場に引っ張って行った。

そのような経緯があり二人の手合わせを見学させてもらっていた悠生だが、星彩の気迫に圧され、ドキドキとしていたところである。
彼女は細腕で阿斗の武器を薙ぎ払ってしまったのだ。
いくら阿斗が子供であれ、彼は高い武術のセンスを持っている、悠生はそう感じていたが、こうも見事に勝敗がついてしまうと、慰めの言葉も思い浮かばない。


「阿斗様、今、手を抜かれましたね?」

「何を言う。星彩は張飛殿の娘ゆえ強いに決まっていよう。私では敵うはずが無い」

「では、もう一度勝負致しましょう。阿斗様の本気をお見せください」


手早く剣を拾い、真面目な顔で手渡してくる星彩に、阿斗は少し困った様子である。
ちらりと視線が通うと、悠生は口パクで「頑張れ」と伝えるが、阿斗はやはり苦笑するだけだった。



結局、その日の阿斗は星彩を負かすことが出来なかった。
星彩は「阿斗様が手を抜いた」と指摘したが、何故そのようなことをする必要があるか、悠生には分からなかった。
勝てるほどの実力があるのなら、本気で戦えば良いのに。
そうしたら、きっと星彩も褒めてくれるのにと、悠生は阿斗の部屋で寛ぎながら、女官に服を変えてもらう阿斗の姿を眺めていた。


「ねえ、阿斗って本当はもっと強いんでしょう?前に関平どのと鍛練をしていた時は、綺麗に攻撃を交わしていたじゃないか」

「しかしあの後、関平に負かされたことを忘れたか?星彩の前だからと、あやつは手加減もせぬ」

「そうだけど…」


女官が退室したところで疑問を投げかけた悠生だが、足を組んで椅子に座る阿斗が妙に落ち着き払っていて、どこか調子が悪いのではないかと心配になってしまう。


 

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