余すところなく全て



「大丈夫ですよ。上手くは言えませんが…」


大丈夫…、たったそれだけの言葉に翻弄され、息が止まりそうになる。
許されたような気がしてしまう。
咲良の笑顔に甘え、もっと酷いことをしてしまいそうになる。


「人を殺すことが良いことだとは思いません。私が戦場に立ったら、恐ろしくて、泣いて逃げ出してしまいそうです」

「だったらよ…」

「でも私は、甘寧さんが本当はお優しいことを知っています。だから、甘寧さんを怖いとか、嫌いだとは思いませんよ」


優しいと言われるような、何かをしてやった覚えは無い。
嫌われることはあれども、好かれる理由は無い。
だが、咲良は嘘を言っているようには見えなかった。
彼女の笑顔は、言葉は…偽りのものではないのだ。


「俺はあんたに嫌われたくない。小さい男だと思うだろうが、俺は…」

「嫌いになったりなんかしません。お友達なんですから」

「友達?俺とあんたが?」

「え、ずっとそのつもりだったんですけど…すみません。おこがましかったですか…?」


申し訳なさそうな顔をして謝る咲良に、甘寧は思わず吹き出してしまった。
咲良は始めこそ目を丸くするも、「どうして笑うんですか」とむっとしたように呟くが、甘寧はそんな彼女が可愛く思えて仕方がなかった。


「あんた、やっぱり変わってるな。おかげで安心したぜ」

「そ、そうですか?安心していただけたなら良いんですが…」


友達だから、彼女はこうも親しくしてくれるのだろうか。
不安を抱えていた甘寧にとって、咲良の反応は思いも寄らぬものだったが、彼女の想いを知った今は、やけにすっきりした気分である。


「落涙。俺はもう二度と、戦場以外で人を傷つけることはしない」

「甘寧さん?」

「あんたしか聞いていないんだ。ちゃんと見張ってろよ、俺のこと」


誓いを立てたは良いが、貫き通せるか分からない。
だから、咲良と約束をすることにした。
甘寧の身勝手な申し出にも、咲良は困ったように笑って、「私で宜しければ」と素直に頷いた。



END

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