余すところなく全て



人を殺してしまった。
かっとなって、思わず手が出て…気付いた時には、既に相手は息をしていなかった。


(流石にきつかったぜ…今回のおっさんの説教は…)


これまでも、甘寧が乱闘騒ぎを起こす度に、呂蒙は甘寧の立場が悪くならないようにと奔走し、孫権や周瑜に頭を下げてくれていたのだ。
若い甘寧に期待し、信頼を寄せているからである。
甘寧もその時は深く反省するし、呂蒙にも、怪我をさせた相手にも申し訳ないと思うのだが、すぐに過去の過ちとしてしまう。

今回、甘寧は酷く酔っていた。
夜の廊下で擦れ違った兵がきちんと挨拶をしなかったように見え、苛立って手をかけ死なせたと言うのだから、非は間違いなく甘寧にある。

騒ぎに気付いた呂蒙がすぐに手を回したため大事には至らなかったが、度重なる不祥事に呂蒙も呆れ、いつも以上に長々しい説教を聞かされてしまった。
いつもならば、軽く聞き流し適当に受け流しているところだが、一夜明けても立ち直れる気がしない。
呂蒙の一言が、甘寧の胸に重くのしかかっていた。


(おっさんも、別にあいつの名を出すことはねえだろうが)


落涙殿に知られたらどうするつもりだ、と呂蒙はぴしゃりと言い放った。
何故そこで彼女…咲良の名を聞かされなければならないのだと、甘寧は訝しんだが、後で冷静になって考えてみれば、今回の件が咲良の耳に入ったら…、非常に恐ろしいことになると気付いたのだ。

甘寧は咲良に怪我を負わせたことがある。
それに関しては既に謝罪をし、彼女との仲も悪いと言う訳ではない。
だが、甘寧が戦場以外で、感情的になって罪も無い人を殺したとなれば、咲良も乱暴者と甘寧を恐れ、今までのように親しく接してはくれないかもしれない。
呂蒙は甘寧の咲良への気持ちを何とは無しに感じ取り、忠告をしたのだろう。
このことは何が何でも隠し通さなければならない、そう思う一方、咲良に知られた時のことを考えるだけで冷や汗が流れる。
野蛮な男だと怯えた目で見られるのだろうか、もう、笑顔を向けてはくれなくなるだろうか。


(いつか知られるなら、自分で話す方が潔くて良い、か…?)


甘寧は頭を抱えるも、少しして重い腰を上げた。
どう言い訳をすれば、咲良に嫌われなくて済むか。
彼女の部屋に到着するも、ついに答えは出なかった。


 

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