けだるげな風が吹く



「見事な逃げっぷりだよ!もしかして俺って嫌われてる?」

「え……、」


やれやれと盛大な独り言を呟くと、馬岱の存在に気付いた悠生は、驚いたように目を丸くし、そのまま俯いてしまった。
逆に馬岱は悠生の態度の変わりように驚いた。
魏延には、あれほど親しく接していたのに、どうして急に大人しくなるのか。


(人見知りは魏延殿と同じってこと?そうだったら、扱いにくいかもしれないな…)


馬岱は内心で溜め息を漏らしていた。
馬超のお気に入りの少年がどのような人物か確かめたい気持ちがあったのだが、悠生は予想外に内気な性格のようである。
第一印象で相性が悪いと決め付けるつもりは無いが、魏延のように逃げられては困るからと、悠生を怖がらせないよう、極力優しく声をかけた。


「こんにちは。俺は若の…馬超将軍の遣いの者だよ」

「馬超どのの?」

「そう。急な用事が出来ちゃって、悠生殿との約束を果たせなくて申し訳無いって。だから俺が代わりに掃除をするから、安心してよ」


馬超の名を出し、此処へ来た用件を告げると、顔を上げて馬岱を見た悠生は小さく笑った。
彼の表情の変化に馬岱はまたもや驚かされるも、悠生は馬超の遣いだからと気を許したのか、落ち着いた様子で話を始める。


「馬超どの、もしかしたら病気かもって、少し心配していたんです。だから安心しました」

「そう、ごめんね、不安にさせて。若の分を残していてくれたんでしょ?俺が片付けておくから、君はもう帰って良いよ?」

「はい。あ、あの…お名前を聞いても…?」

「そういえば名乗るのが遅れたね。俺の名は馬岱!これからも宜しく頼むよ」


悠生は馬岱の名を聞くと、暫し瞳を瞬かせた後、「ここにいるぞ?」と呟き、首を傾げた。
いったい何が言いたいのか、意味が分からず…、しかし悠生の仕種が子供っぽく可愛らしかったため、馬岱はにこにこと笑って返事をする。


 

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