けだるげな風が吹く



他ならぬお前に頼みたいことがある、などと馬超がいつにも増して重々しい調子で相談事をしてきたため、馬岱は何事かとついつい身構えてしまった。
取り敢えず場をもり立てようと、馬岱は大袈裟なほど明るく返事をしてみせる。


「なーに若、悩み事?それなら早く俺に言ってくれれば良かったのに!ほら、俺ってこう見えて暇なのよ」

「そうか!暇なのか!」


何故か興奮したように瞳をキラキラと輝かせる馬超に、馬岱の表情が固まる。
馬超はほっとした様子で、先程の湿っぽさが嘘のように、決して他人の前では見せない清々しい笑顔で語り出した。


「今日、会合を予定していただろう。しかし俺はそのことをすっかり忘れ、悠生殿と約束をしてしまったのだ」

「悠生殿って…若が直々に馬術を教えていた子だよね?大事な鞍まであげちゃったって、俺も驚いたよ」


五虎将軍の一人である馬超が、特定の人物に馬術を教えている…それがどれほど驚くべきことか。
悠生という少年を、馬岱はよく知らない。
阿斗様のお気に入り、とは耳にしたことがあるが、直接顔を合わせる機会は無かった。

だが、馬超はいたく悠生を気に入り、あろうことか父の形見である鞍を与えてしまったのだ。
その鞍は馬超が幼い頃に馬騰に与えられたもので、馬超自身、我が子が馬に乗れるようになったらこの鞍を贈ろうと、子の成長を楽しみにしていた。
結局、叶わぬ願いとなってしまったが…大切な鞍を手放してしまうほど、馬超は悠生を可愛がっているようだ。

そんな悠生との約束を一方的に破るのは忍びなく、そこで馬超に相談という訳である。


「それで、何を約束したの?」

「厩舎の掃除だ」

「は?若っていつもそんなことしてた訳!?」

「問題無かろう。俺の馬も繋いであるのだからな。度々悠生殿も手伝ってくれてな、それはそれは助かっている」


馬超は平然と言ってのけるが、大問題だ。
しかし、馬のこととなると聞く耳を持たない馬超に、自ら掃除をするのはやめてくれと願う訳にはいかず…馬岱は苦笑するしかなかった。
馬超が掃除をする必要が無いぐらい厩舎を綺麗にさせなければ、と新たな気掛かりが増えるも、馬岱は馬超と悠生との約束を果たすべく、厩舎に向かうことにした。


 

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