計り知れない想い
「孫権様は、私と居ると幸せだと言ってくださるわ。周泰殿も、その女性と居ると、幸せな気持ちになっていたでしょう?胸があたたかくなるような…不思議な気持ちに。だから、彼女の涙を見て苦しんでいるのよね?」
「……、」
「謝罪をする勇気が無くても、時が解決してくれるかもしれない…。だけど、これまで孫権様のために戦場で雄々しく活躍してきた周泰殿に、女性に会いに行く勇気が無いはずがない、そうよね?」
男ならば、悩まずに行動せよ…そのような意味合いを含んだ有無を言わせぬ練師の発言に、険しい表情をした周泰は無言のまま、渋々と小さく頷いた。
立派な体格の周泰がまるで子供のように見えてしまう。
練師の言葉の全てに納得した訳ではないのだろう。
彼にとっては、戦場に立ち劣勢状態を切り抜けることよりも、勇気が要ることなのかもしれないのだから。
「ふふっ…関係の無い私が言うのもおかしいけれど…私だったら、今の周泰殿を前にしただけで、謝罪される前に許してしまいたくなるわ」
「……?」
「深く考えなくて良いのよ。ただ、素直な気持ちを伝えれば、それだけで」
悩める周泰を相手にし、母性が擽られる…それは子を持つ母である練師の感じたことだが、優しい旋律を奏でる落涙もきっと、周泰の誠意を感じてくれるはずだ。
女とは単純な生き物である。
親しい男の真っ直ぐな眼差しを、その言葉を、無視出来る訳が無いのだ。
未だに気持ちの整理がつかず、周泰は色々と葛藤しているようだったが、練師は二人が近く仲直りするであろうことを予感し、柔らかく微笑んだ。
END
[ 10/95 ]
[←] [→]
[戻]
[栞を挟む]