計り知れない想い



孫権に呼び出された周泰が、中庭でぼんやりと突っ立っている。
そこへ練師が一人で現れ、驚いたらしい周泰は静かに目を見開かせたが、練師がにこりと微笑むと彼は唇を結び、言葉を呑み込んだ。


「突然ごめんなさいね。孫権様のお計らいで、周泰殿とお話しをする時間を貰ったのよ」

「…何故…」

「最近、顔を合わせることも減ってしまったでしょう?周泰殿が、無茶をしてはいないかと思って。宜しかったら近況をお聞かせ願えるかしら?」


練師が尋ねると、周泰は困ったように目を伏せる。
誰より寡黙で、人との会話がすこぶる苦手な周泰だが、彼はきっと答えをくれるだろう。
急かすことは決してせず、練師は微笑みを絶やさずに周泰を見つめていた。


「…特に…変わったことは無い…」

「そう、それなら良かったわ。だけど、孫権様が心配なさっていたわよ。周泰殿に元気が無いようだと」

「……、」


孫権の名を出すと、主に気を使わせていたことを知った周泰は、がっくりと落ち込んだように押し黙ってしまう。
これほど後ろ向きで弱気になっている周泰を、練師も見たことが無かったのだ。
周泰は深い溜め息を漏らし、ぽつりと、耳を済ませなければ聞こえないほどの小さな声で語り始める。


「…ある女を…泣かせてしまった…全て俺が悪いのだが…謝ることなど出来ない…」

「その女性は、周泰殿の精一杯の謝罪を聞き入れてくださらないようなお方なの?」

「…いや…、きっと…許してくださるだろう…だが…合わせる顔が無い…」


周泰は恐れているのだ。
もしも落涙に拒絶されたらと思うと、何もかもが恐ろしくなり、臆病になり…後一歩を踏み出せないでいるのだろう。
しかし、周泰は落涙への想いを恋情だとは思っていない。
謝罪に踏み切れない理由や、落涙に対する一連の恐怖も、胸の痛みも…全て、恋の病だと言うのに。


 

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