君は花のよう



最終決戦の地となった古志城で…、しかも反乱軍の本陣で、豊久は忘れもしなかった悠生の姿を見つけた。
桃の花の色をしていた頬には目に見て分かる傷が付いていて、その他にも目立つ怪我が多く、手には厚く布を巻いていた。
遠くを見つめる眼差しは何処か寂しげで、今にも消えてしまいそうだ。


「悠生!?」


豊久の呼ぶ声に、はっとしてこちらを向いた悠生は驚いた様子で、それでも、ぱっと明るい笑顔を見せた。


「豊久どの、お久しぶりです。元気そうで良かった」


思わず駆け寄った豊久が断りもなく悠生の頬に手を伸ばすと、彼はびくっと肩を震わせた。
ほんの少しだけ、熱を持っていた。
豊久に傷付ける意図が無いことを知ると、悠生は抵抗するそぶりも見せずに、静かに目を閉じた。
無防備な悠生の姿にどきりとしたが、豊久はやっとの思いで声を搾り出した。


「勝手に逃げ出して悪かった。俺は、あんたに迷惑をかけたくなかったんだ。だけど、あんたがこんなに傷だらけになるなら…逃げなければ良かった」

「謝らないでください。三成さまが言っていました。島津は意に反した戦はしないんだって」

「それでもあんたには感謝していたよ。本当は傍に居たかった。傷付けたくなかった。今更何を言っても言い訳にしかならないけど…」


悠生は豊久の手を握って、穏やかな笑顔を浮かべた。
怪我が痛々しくて、豊久は胸が張り裂けそうになる。


「島津家の生粋の武将らしいところ、凄くかっこいいです。僕は豊久どのが好きですよ。…それはもう、ずっと昔から」

「す、好き……!」

「最後の戦い、皆で一緒に頑張りましょうね」


悠生に褒められただけで、豊久は舞い上がってしまいそうになった。
しかも、好きだなんて…これ以上の喜ばしい言葉は無いかもしれない。


「悠生、俺もあんたが…!いや、その…」

「豊久どの?」

「さ、薩摩には猫がたくさん居るんだ!この戦が終わったら、俺の生まれた国に遊びに来てほしい!あんたのこと、迎えに行くから!」


しどろもどろになりながらも言葉を紡いだら、悠生は「嬉しいです」と可愛らしく微笑んだ。
誰よりも清らかで、春に咲く花のような、そんな悠生に心を惹かれた豊久は、ようやくこの感情の名前を知った。
父にも伯父にも教わることがなかったし、悠生に出会うまでは興味を抱くこともなかった。

…遠呂智が倒れたら必ず、悠生に想いを告げよう。
その細い身体を抱きしめたらもっと良い匂いがするはずだ、と妄想しながら密かに決意を固めた豊久は、最後の敵が待つ古志城を見つめた。
豊久の恋心は戦う力の源となり、あの義弘を唸らせるほどの活躍をすることになる。



「長坂の英雄の次は薩摩のガキか…。魔性ってのは、ああいう奴のことを言うんだろうな…男限定で」


耳にした覚えもない雑賀孫市の呟きが、豊久の脳裏にこだまする。
…告白の絶好の機会を逃したことに豊久が気付くのは、遠呂智の脅威が去った後、世が静寂を取り戻してからのこと。
島津は蜀軍から離れ、悠生も戦場に立つ必要が無くなった今、どういった口実で会いに行けば良いのか、豊久にとって頭を悩ませる日々が続くのだった。



END

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