君は花のよう



翌日になると、悠生はまた新たな戦場に行くことになった。
若さゆえかすっかり熱が下がった豊久も、悠生に着いていこうと思ったが、怪我が治るまでは休養させて戦には出さないと約束したようで、黄皓と共に取り残されそうになる。
しかし、こんな容赦無い男と二人きりにはなりたくなくて、豊久は必死になって悠生に願い出た。


「じゃあ…本陣の守備を任せてもらえるよう、お願いをしてみますね」

「ありがとう!助かるよ!」

「だけど、無茶をしたら…駄目ですからね」


悠生は豊久の身を案じていたが、本当に怪我はたいしたことがないのだ。
それに、隙を見て逃げようとは考えていない。
救われた恩を返さなければ男らしくないだろうと、豊久は悠生のために戦おうと決めた。


遠呂智軍にて、悠生が仕えているという石田三成は、冷徹な男だと言われている。
豊久も三成の評判は聞いたことがあるが、これまでは、あまり興味を抱いていなかった。
妲己のお気に入りとして重用されている三成は、今回も反乱軍を追い返すための総大将に選ばれていた。
手負いの豊久の同行を許したものの、三成は悠生の傍に立つ豊久を見下ろして、溜め息を漏らした。


「フン、島津のガキか。島津は蜀軍と共闘しているのだろう?悠生よ、貴様も一緒に逃げ出すつもりか?」

「三成さま、僕は遠呂智軍からは離れません。僕が大事なのは、友達ですから…」

「…冗談に決まっている。悠生、もう勝手は許さぬぞ」


立ち去る三成に頭を下げた悠生は、振り返って豊久に笑みを見せた。
弓を手にした姿はあまりにも頼りなくて、豊久は悠生を止めたくなったが、結局何も言えなかった。

敵は当然反乱軍だが、どうやら大群ではないようだ。
悠生は先陣に混ざって、戦場に立っている。
本陣に残った豊久は、物資の補給や怪我人の手当てを手伝っていたが、悠生のことが気掛かりで作業に集中出来ずにいた。


(あんなにか細いのに…あいつは本当に戦えるってのか…?)


心配でたまらなかった。
豊久が戦う理由は、伯父のように強くなりたいからであって、友のために戦うという悠生の姿は、ただただ健気なものだった。
しかし、悠生を信用していない訳ではないのだが、彼が武器を持って戦っている姿がどうしても想像出来ない。

…花は、いつか散るものだ。
戦場に生きる花は尚更、命が短い。
だがいつまでも咲いていてほしい、そう思うのは身勝手なことだろうか。
迷いながらも立ち上がった豊久の背に、三成の冷たい声がぶつけられる。


 

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