君は花のよう
「…この可愛い子は、豊久どのの友達ですか?」
「可愛いだろ?そうだよ、俺の一番の友達なんだ!」
「ふふ、僕、動物が好きなんです。犬も猫も大好きです」
眠る猫の頭を撫でながら微笑む悠生に、豊久はすっかりほだされていた。
椅子に座った黄皓がなんとも言えない表情でこちらを見ていることにも気付かないぐらいに、悠生との会話に夢中になる。
話の中で、自分はこの悠生に助けられたことを知った。
豊久は黄皓が何故怒っていたか、ようやく理解した。
遠呂智軍の仲間でありながら、悠生が清らかな人間であることはすぐに分かった。
もし目覚めてすぐに悠生が居たら…自分は彼を、責めるようなことを言っていたかもしれないのだ。
(俺は馬鹿だから…先に怒られていて良かった)
反省することが多すぎて、豊久が落ち込んでいると、悠生が大きな目を向けて、心配そうに見つめてくる。
もうずっと、ドキドキしてばかりで、豊久は言いようのない苦痛を覚えた。
彼も戦場に立っていた、だから怪我をした豊久を助けることが出来たのだ。
本当に、悠生は遠呂智軍の仲間なのか、豊久にはやっぱり信じられなかった。
「な、なんで…あんたみたいな奴が、遠呂智軍にいるんだ」
「……、」
突っ掛かるような豊久の言葉に悠生は僅かに眉を潜めたが、迷いながらもしっかりと目を見て答えた。
「友達が、人質に取られているんです」
「人質……」
「僕には力が無いので、遠呂智に従うことしか出来ません。僕は世界より、友達を失うことが怖いんです」
遠呂智軍は倒すべき悪で、反乱軍が正しい。
これまで、そう思い込んで戦ってきたが、どうしても従うしか無かった人間も居るのだ、全て黄皓の言う通りだった。
意に反した戦いを強いられている悠生を、助けてあげたいと思った。
しかし、自分は遠呂智軍に捕われているようなものだ。
悠生は逃がしてくれると約束したが、それではまた、勝手をしたと悠生が叱られるのではないか。
悠生は力が無いと言うが、それは豊久の方だ。
悔しくて唇を噛んだら、悠生は何故かくすっと笑って、豊久の頬を撫でた。
「唇を噛む癖があるのは、いけない子なんですよ。僕と同じで」
……豊久は始終真っ赤になってばかりだから、悠生はおかしくなって笑った。
幼くて活発な印象を抱かせる少年だが、島津豊久という人は、関ヶ原に散った戦国の英雄の一人である。
記憶を辿れば、彼の伯父・義弘は蜀軍と共に戦っていたことを思い出した。
趙雲と、一緒に居たのだ。
もしかしたら豊久も趙雲に会ったことがあるかもしれないと思うと、少しだけ縁を感じた。
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