君は花のよう



「な、何で俺を助けた!遠呂智軍なんかに手を貸される筋合いは無い!敵の手で兜を外されるなんて、そんなのは恥にしかならない…」

「……、私が此処に居て本当に良かったです。貴方の幼い言葉は凶器にもなりますから」


黄皓は些か乱暴に豊久の首根っこを掴んだ。
怪我と発熱により体力が著しく低下している豊久は、華奢な男を振り払うことも出来なかった。


「良いですか?誰もが皆、本心から遠呂智に従っていると思わないことです。貴方には思いも寄らない、考えがあってのこと…」

「それでも、遠呂智軍は悪だ!だから俺達は戦っている!」

「一部の人間は確かに遠呂智に心酔してします。ですが、全ての人間が同じだと本当に思いますか?何か理由があると、その小さな頭で考えたことはないのですか?」


黄皓にぎりぎりと首を締め上げられ、豊久は情けなく唸った。
やはり、遠呂智軍は悪い奴らの集まりだ。
自分を助けたのだって、言うことを聞かせて戦わせるために違いない。


「黄皓どの!?や…やめてください…!」


悲鳴のような声が聞こえた時、豊久は拘束から解放されて寝台に倒れ込んだ。
げほげほと咳込み涙目になっていると、そっと背を撫でられる。
思わず顔を上げたら、そこには随分と可愛らしい顔立ちの子供が居て、ただでさえ酸欠で鼓動が速まっていた豊久の心臓が跳ねた。


「悲しいです…黄皓どのはもう、そんなことしないって思ってたのに…」

「申し訳ありません。怖がらせてしまいましたね。ですが、ただのケンカですよ」

「……、」


胡散臭い笑顔だ、と豊久は弱々しく黄皓を睨んだ。
それよりも、背を撫でてくれたこの子供が気になった。
少女のようで、少年のようでもある。
こんなに髪がさらさらで良い匂いのする男は、少なくとも薩摩には居なかった。
豊久の日に焼けた肌とは真逆の真っ白な肌は、屏風に描かれている画でしか見たことがない雪のようだ。
それでいて頬は桃の花のように色付いていていて、雪と桃を同時に見た豊久は不思議な気持ちになった。


「僕は悠生といいます。あなたのお名前は…?」

「…俺は、豊久。島津豊久だ」

「豊久…どの」


悠生と名乗った子供は、確かめるように豊久の名を呟いた。
少し寂しげな目をしたと思ったら、困ったように笑った悠生は、いきなり、豊久の手に自分の手を重ねた。
赤くなった顔を黄皓に見られたくなくて、豊久は思わず俯いていたが、悠生には丸見えだろう。


「…怪我が治ったら、豊久どのが上手く逃げられるように頑張ります。それまで、遠呂智軍のふりをしてくれますか?」

「あ、ああ…分かったよ…」


反論する気もおきないほどに、豊久は照れていた。
血気盛んな薩摩の男達に扱かれて育った豊久にとって、悠生は今まで接したことのないような人間なのだ。
こんな人間が遠呂智軍に居たなんて思いもしなかった。


 

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