君は花のよう



悠生は少年の兜を外そうとしたが、あまりに固く締めてあって、どうしても緒がほどけない。
もたついてしまったので、短刀で兜の緒を切った。
応急処置用に持っていた包帯で止血をしてやるが、彼は怪我の影響か発熱し、呼吸も荒く乱れていた。
このまま放置したら…若い彼の命は尽きるかもしれない。
だが相手は反乱軍の人間だ。
手助けをしては、悠生だけではなく付き合ってくれた許チョ、そして三成までもが罰を受けることになるだろう。
それでも、見捨てることなんて出来なかった。


「子供はおいらが背負ってやるから、悠生は猫を頼んだぞぉ」

「許チョどの…ごめんなさい…」


少年は、遠呂智軍に助けられることを望んでいないかもしれない。
それでも、興味本位で関わってしまったのだから、責任はとらなくてはならない。

少年の兜を持ち上げた悠生は、刻み込まれた十字の家紋を見つめた。
彼は、島津の人間なのだ。
それを知って余計に、悠生は申し訳ないことをしているような気になった。

怪我が治るまで、遠呂智軍のふりをしてもらえば良い。
そして機会を見て、逃げてもらえば良いのだ。
猫はすんなり悠生の腕に収まってくれて、その愛らしい姿に少しだけ心が和んだ。




─────




油断をした訳ではない。
ただ、尊敬する伯父の勇ましい戦いぶりを見て、自分ももっと頑張っているところを見せたくなった。
そして、突出をして…崖に追い詰められた挙げ句、足を滑らせて真っ逆さまに落っこちてしまったのである。


世に遠呂智が降臨した後、島津義弘はより激しい戦いを求め、力無い蜀軍と共闘することを決めた。
甥である豊久も伯父・義弘に従った。
異形の輩を相手にするこの奇妙な戦いも、修業だと思えばやる気が出る。

豊久は日々、義弘にくっついて遠呂智軍と戦っていた。
化け物だけではなく、遠呂智軍には人間も居たが、あんな非道な奴らの仲間になって世の人々を苦しめる一部の人間達を、豊久は純粋に嫌った。


「…伯父上…ケツを蹴るのは勘弁してくれ…!」


思ったよりはっきりと寝言を口にして、豊久は己の大声に目を覚ました。
見知らぬ天井に驚いて飛び起きるが、傍らに愛猫がうずくまっているのを見て安堵する。
義弘が戦場にも連れて来る猫達は、まるで犬のように賢く、豊久の居場所を見つけて迎えに来るのだ。


「っ…いてえ…」


頭がずきずきして、思わず息がつまりそうになる。
寝台が二つ、そして…豊久の兜…緒が切れているそれが置いてある卓以外に何も無い簡素な部屋の扉が開き、現れた細身の男は身を起こしている豊久を一瞥し、静かに寝台に近付いてきた。


「貴方の寝言は実にうるさいですね。部屋の外まで響いていましたよ」

「なっ」

「熱はまた下がりませんか。ですが怪我の具合が宜しいなら、お早くお帰りになられた方が良い。貴方は反乱軍の人間なのでしょう?」


私は黄皓と申します、と最後に突き付けた男は、どこか面倒くさそうに豊久を見下ろしていた。
その言いようはないだろうと豊久はムカッとしたが、反乱軍の人間、という言葉が引っ掛かった。
つまり、此処は…遠呂智軍の縄張りだということだ。


 

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