君は花のよう



猫が鳴いていた。
此処は血生臭い戦場で、ちっぽけな猫なんかが紛れ込んでいたら馬に蹴られて一たまりもないだろう。
にゃあにゃあと、悠生はその消え入りそうな鳴き声をどうしても放っておけなくて、だからと言って黙って猫探しに赴いたら三成に心配をかけてしまう。
怪我をして動けない猫を連れて帰ることは出来ないだろうが、せめて安全な場所まで逃がすことは出来ないだろうか。
本陣に戻っても、悠生は猫のことが気になって仕方がなかった。


「悠生よ、どうしたんだあ?忘れ物でもしたか?」

「許チョどの…、あの、実は…」


不安げな顔をしている悠生に気が付いた許チョは、にこにこと笑いかけてくれる。
ここは優しい彼に頼ってしまおうと、悠生は猫の声がした場所まで付き添ってほしいとお願いをした。


「分かっただよ、すぐに帰れば三成にも気付かれねえだろ」

「ありがとうございます、許チョどの!」


此度の戦は、遠呂智軍が勝利した。
反乱軍と交戦したばかりの戦場には、まだ敵兵が残っていてもおかしくはない。
遠呂智軍の敵…それは紛れも無い、人間である。
必要以上に他人を傷付けたくないとは思っているが、悠生にはどうしようもないことだった。
目的地まで、どうか誰にも出会いませんように。

悠生は猫の声が聞こえた岩場に向かった。
奥へと進んでいくと、今も猫の声が聞こえる。
先程よりもか細くなっているような気がして、悠生は足を速めた。


「悠生、転んじまうぞぉ」


確かに足場が悪く、滑って転んだら怪我をしてしまうだろう。
悠生は大丈夫ですよと笑って答えたのだが、ついに探していた猫を見つけた時、予想外の光景に驚いて小石に躓いてしまった。


「あっ…うわっ…!」


前のめりになって転倒する寸前、間一髪、許チョが悠生の手首を掴んで引き寄せる。
見た目からは想像も出来ないほど機敏な動きをする人だ。
おかげで猫を潰すことはなかった…猫だけではなく、血まみれで横たわっている少年も。


「きょ、許チョどの!男の子が…どうしよう…!」

「崖から落ちたみてえだな…おい、生きてるかあ?」


許チョにお礼を言うことも忘れるほど、悠生は困惑していた。
額から血を流し、俯せになって倒れている見知らぬ少年。
悠生よりも少し、年上ぐらいだろうか。
見覚えがないのは、彼が恐らく反乱軍の人間だからだ。
猫に怪我はなく、砂まみれになっている少年の傍から片時も離れずに寄り添っていたようだ。


 

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