静かな居場所



法正は大通りに到着するや否や、手にしていた布を器用に回転させて、まるで大道芸のように様々な技を繰り出した。
意思を持っているかのごとく、美しい布が風にひらひらとなびいた。
足を止めた人々は皆、法正の芸に感激し、次々に拍手が沸き起こる。
すぐに人だかりが出来て、喜んで銭を投げる者までいた。
悠生のために見世物になってくれている、そのことを思うと申し訳なかったが、法正の器用さと、目的のためなら手段を選ばないその行動力に感心するばかりだった。

これだけ存在を主張し、注目が集まれば、きっと趙雲の目にも止まるだろう。
思った通り、人だかりの中心に立つ法正の傍に居た悠生を見付けてくれた趙雲は、驚いた顔をしてこちらに駆け寄ってきた。


「趙雲殿、遅かったですね。待ちくたびれましたよ」

「法正殿、何故貴方が悠生殿を…」

「趙雲殿がお傍にいながら、悠生殿を一人にし、あのような恐ろしい想いをさせるとは…。全く、世話役ならばもっとしっかりしていただきたいものですよ」

「……、」


不遜な物言いに、悠生の方がびっくりしてしまう。
法正に一方的に責められた趙雲は、何も言葉を口にせず、疑うような視線を向けているのだ。
慌てた悠生は、上手く説明する自信は無かったのだが、二人の間に入ると、どうにか事実を伝えようとした。


「趙雲どの、ごめんなさい!僕…ぼうっとしていたら道に迷ってしまって、法正どのに助けてもらったんです。本当にごめんなさい…」

「いや、私こそすまなかった。貴方を一人にするつもりは無かったのだが…これからは気をつけるゆえ、許してほしい」


趙雲が謝る必要は無いのに、悠生は申し訳なさで息がつまりそうになる。
意味深な笑みを浮かべる法正に気付いた趙雲は、少し気まずそうにしながら、悠生の手をとった。
先程、男達に乱暴に掴まれた手首は、少し赤くなっている。


「法正殿。後日、私の方から礼をしに参ります」

「いえ、悠生殿が大人になったらお返しをくれると言うので、構いませんよ。では、私はこれで」


あまり二人の仲は良くないのだろうか、法正に対して、趙雲が珍しくも一線を引いているようで、悠生は意外に思った。
立ち去る法正にもう一度お礼を言ってから、趙雲を見上げたら、彼は何とも言えないような複雑そうな表情で悠生を見ていた。
握られた手は、今もぎゅっと力を込められている。


「悠生殿…あまり簡単に約束をしてはいけないよ。特に法正殿は心底、質が悪い人だ」

「でも…助けてもらいましたから…」

「彼は阿斗様に気に入られている貴方を利用する気だ。ああ…私が目を離さなければ、このようなことにはならなかったのだが」


頭を抱える趙雲は、余程深刻にものを考えているらしい。
悠生は別に、法正に対して危機感を抱いてはいないのだが、趙雲を困らせることは辛かった。


「じゃあ、趙雲どの…僕が大人になるまで、僕のことを見ていてくれますか?僕が、間違ったことをしないように…」

「……、そうだな。いつまでも私が傍に居れば、安心だ」


法正のことを抜きにしても、趙雲がずっと一緒に居てくれるなら、それだけで嬉しい。
図々しいかな、とも思ったが、趙雲が笑ってくれたので、悠生も安堵した。
法正の手も優しかったけれど、やっぱり、趙雲の大きな手が好きだ。


(でも、趙雲どののことは全部好きだよ。嫌いなところなんて、一つも無い)


今度は、趙雲は手を繋いで隣を歩いてくれたから、ゲームを思い出させる彼の背中を見ることは無かった。
本当に、夢ではない。
悠生はちゃんと、今この時を生きている。
しっかりと握ってくれる手が、趙雲の存在を間近に感じさせてくれるから…悠生はとても幸せな気持ちになれた。



END

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