計り知れない想い




孫権は練師の膨らんだ腹に手を添え、内に宿る確かな存在を感じ取り、無邪気な子供のように笑みを浮かべた。


「練師よ、きっと元気な子を産んでくれ。大虎も兄弟が出来るのを楽しみにしている」

「ふふ、孫権様の御子ですもの。必ず、元気に産まれてきてくださいますよ」


練師は、孫権の妹・孫尚香付きの女官であった。
聡明で美しく武芸にも通じた練師は、孫権の深い寵愛を受け、尚香が蜀の劉備に嫁いだ時、孫権の側室となった。

尚香が劉備の元を離れ、呉に帰還してからは、練師も尚香をよく支えていたが、孫権との子を授かったため、こうして落ち着いた暮らしをしていた。
二人の最初の子は娘であったが、練師は再び孫権の子を身篭っており、孫権も当初は男子を望んでいたものの、元気であればそれだけで十分だと、子の誕生を誰より楽しみにしている。


「練師、私は幸せだ。お前が傍に居てくれると思うと強くなれる。更に、愛しいお前との子が二人も居て、他に望むものなどありはしない」


孫権の真っ直ぐな愛の言葉に、練師は頬を染め、そっと彼の手を握った。
幸せを感じているのは、孫権だけでは無い。
練師とて同じだ、自分は誰より恵まれた幸せ者であると自負している。
この幸せは、途絶えることはない…何の疑問も持たず、そう信じていられることが、幸せだった。


「だが…出来ることなら、周泰にもこの幸せを味わわせてやりたいものだなぁ…」

「ええ…周泰殿は良いお歳でありながら、妻帯を持っていらっしゃらないのですよね。きっと、孫権様のことしか見えていらっしゃらないのです」

「実は、そのことでお前に相談があるのだ」


孫権はぎゅっと練師の手を握り返すも、美しい碧眼は弱々しく揺らいでいた。
何か悩み事がある時、孫権は誰に打ち明けることもせず、こうして思い詰めた顔をしている。
だが、問題を解決させようと孫権が前向きになり、更には彼が信頼を置いている周瑜や呂蒙より先に妻を頼ってくれることは、練師にとっても嬉しいことだ。


 

[ 7/95 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -