叶わぬ恋



「あなたの体に異変が見られたのはほんの少しの間だけ。だけど…、やっぱり、私の見間違いだったのかもしれない」

「……、」


星彩はずっと、悠生を疑っていたのだ。
すんなりと城で暮らすことを許された身元も知れぬ孤児を、注意して見ていた。

だが、疑問を持たれても仕方がないだろう。
悠生が、自分のことを何も話さないからいけないのだ。
それに、得体の知れない人間を好んで傍に置こうとする阿斗は世間知らずで、危機感が無い。
趙雲だって最初は、尋問紛いに詰め寄ってきたのだから。

それでも、体が透けるなんて…、さすがに理由が思い当たらない。
普通だったら、有り得ないことだ。


(でも、この世界の僕は、普通じゃない…。おかしいのは、僕なんだ…)


星彩が目にした悠生の異変が、何かのサインだとするなら、次に同じ現象が起きたとき、この体は朽ちてしまうのかもしれない。
バグの行き着く先は果たして何処なのか。
それは、誰にも分からない。


「僕は…バグだから…いつか、消えて無くなってしまうのかもしれません…」

「ばぐ…?」

「だけど僕は、阿斗の敵にはなりません!阿斗を裏切るぐらいなら、死んだ方が良い…」


阿斗に悪い影響を与える者だと判断されたら、すぐに引き離されてしまうだろう。
どれほど彼のことを慕っていても…、離れ離れになる時が来るかもしれないのだ。

悠生の声は震えていたが、顔を上げ、しっかりと星彩を見つめる。
どうしても、この想いに偽りが無いことだけは、伝えたかった。


「死ぬなんて、簡単に口にしないで」

「…ごめんなさい」

「いいえ、私も…あなたを悩ませるようなことを言って、ごめんなさい。あなたが悪い人じゃないことは知っているわ。関平に聞いたのよ、お守りを預かったって」


くすっ、と星彩が笑った。
滅多にお目にかかれないであろう彼女の無防備な素顔を目にし、悠生は少なからず驚いていた。
星彩のこれほど柔らかな微笑みを見たのは初めてで…、と言うより、笑われてしまったのだ。
戦地に赴く関平の無事を願ってお守りを渡しただけであって、別に悪いことをした訳では無いのに、何故か無性に恥ずかしくなる。
口が軽い、いや、他人に隠し事が出来ない関平を恨めしく思ったりはしないが、素直すぎるのも問題である。


「…ありがとう。関平の身を案じてくれて、私も嬉しかった。それが言いたくて、あなたを待っていたの」

「星彩どの…」

「関平は強いわ。きっと、大丈夫よ」


口ではそう断言出来ても、悠生を安心させよう言葉を紡ぐ星彩の胸の内は、不安でいっぱいなのだろう。
誰よりも大好きな人のことだから。
絶対に大丈夫、とは言い切れないのだ。
全てが終わるまで、ひとりで待たされる星彩は、沢山切ない想いをする。
そして、全てが終わった後には、それまでとは比べものにならないほどの絶望を味わわなければならない。

悠生が今、ひとつの未来を星彩に語ることは簡単だが、そんなのはお節介だし、反則だ。
言えば良かったと後悔するかもしれない。
だけど、星彩の前で関平の不幸を言葉にすることなど、悠生には出来なかった。


(離れ離れはいやだよね…、苦しいよね)


乱世に引き裂かれる男と女。
二人の恋の結末は…、泣きたくなるほど、悲しいものだ。
それ以外にも道はあるはずなのに、どう頑張っても、方向転換が出来ない。

離れ離れは、苦しい。
そうは思いながらも、友を選び、咲良を忘れようとしている自分は、最低だ。
自らが選んだ道が、辛く苦しい茨の道であることを、悠生は強く実感した。



END

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