叶わぬ恋



阿斗を月英に託した悠生は、趙雲に許可を得て阿斗を追いかけようとしたが、辺りを見渡しても、やはり趙雲は見つからない。
どうしたものかと、座ったまま暫しじっとしていたら、ふと視線を感じ…誰かに見られていることに気付いた。


(星彩…どの?)


宴の席を抜け出し、扉付近に立っていた星彩と、ばちっと目があってしまった。
彼女は顔色一つ変えず、そのまま部屋を出て行く。
深く鋭い瞳に見つめられていた理由も分からず、悠生は更なる疑問に頭を悩ませた。

星彩まで退室するなんて、こうも人が居なくなっては、関平に失礼ではないか?
とも思ったが、見れば関平は多量の酒を飲み、ぐてんぐてんに酔っていて、誰と会話をしているかも認識していないようだ。
この状況なら、席を立っても平気だろう。

悠生は、星彩の後を追いかけるように急いで部屋を出たが、扉のすぐ外に星彩の姿を見つけ、驚いてつんのめりそうになる。


「あ…あのっ、」

「こんばんは、悠生殿」


壁に背を預けていた星彩は、悠生の顔を見るなり、素早く距離を縮めた。
まるで、悠生が宴を抜け出すのを待っていたかのようだ。


「少し…良いかしら?」

「え…っと、星彩どのは、関平どのと、一緒に居なくて良いんですか?」

「ええ。私ばかりが関平を独り占めしていたら、皆が不平を訴えるわ」


さらりと言われて、悠生は少しばかり居心地が悪くなった。
星彩と関平が互いを意識している…、それは十分承知していたが、やはり、二人の間には踏み込んではいけないような気がした。
星彩の気持ちを聞いてしまえば、悠生もいずれ、彼女の悲しみを背負わなければならなくなる。


(星彩どのの苦しみを知ったって…、一緒に耐えられるほど、僕は強くないんだ)


星彩に促されて向かった先は、屋外の、城の敷地内ではあるのだが、其処には至る所に美しい花が咲いていた。
阿斗と赴いた桃園以外に、ここまで綺麗な庭園があったとは思わなかった。


「わあ…星彩どの、星が凄いですね!」

「そう?この時期には珍しくないわ」


空気が冷たく、澄んでいるからだろう。
街灯など余計な明かりも無い、きらめく星々が、今にも降り注いできそうだ。
とても、静かな夜だった。
それきり口をつぐんでしまった星彩が、もう一度声をかけてくれるのを、悠生は夜空を見上げながら待っていた。

星の彩り、と名付けられた張皇后。
ゲームでは、"蜀の希望の星"とまで言われた娘だ。
しかし、星彩の未来は、今日の星空のように美しく輝いてはいない。
心から信頼していた幼なじみの関平は呉に処刑され、敬愛する父・張飛は部下に殺されてしまう。
想い人と父親を失い、そして居場所を無くした彼女を、劉禅が妻にするのだ。

悠生の友である阿斗は、これから、どうするのだろう。
関平が居なくなった途端、星彩を我が物にしようとするのだろうか。
劉備が私怨で戦を起こしても気に止めず、暗君となる歪んだ道を辿ってしまうのか。


「あなたは…何者なの?」

「……?どういう意味ですか?」

「私が、悠生殿に初めて会ったとき。あなたは気絶してしまったから覚えていないでしょうけど…、あなたの体、透けていたのよ」


星彩がやっと口にした言葉は、悠生にも理解が出来なかった。

体が、透けていた?
村が賊に襲われた、あの悲しい夜のことを思い返す。
悠生は救援に駆け付けてくれた星彩に救われたが、すぐに意識を失ってしまったため、あまり記憶に残っていない。
まさかとは思ったが、本当に身に覚えが無く…、悠生は星彩を見上げ、首を横に降った。
嘘を何よりも嫌っているであろう彼女が、馬鹿馬鹿しい冗談をわざわざ口にするとは思えない。


 

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