祈りのために



(阿斗や星彩どのを置いて、関平どのは先に逝ってしまうんだ)


呆気なく殺されるつもりは、無かったはずだ。
だが、若い彼の未来は、簡単に閉ざされた。
これから先、星彩と恋仲になれる可能性だってあったかもしれないのに。

悔しかっただろう。
死が間近に迫る中、関平は胸を痛め、最後まで愛する人のことを想っていたのだろう。
…そのような悲しみが、現実となるのだ。
でも、悠生は関平を止める術を知らない。


「何処にも行かないで、ください。関平どの…お願いします…」


どうしても、言わずにはいられなかった。
関平は驚いて目を丸くする。
言葉が足りないため、意味をとり損ねられても仕方がないし、子供の言うことだと適当にあしらい、本気にしてくれないかもしれない。


「それは…いくら悠生殿の願いでも、きけません。拙者は軍人です。既に数日後、父上の元へ戻ることも決まっているのです」

「…じゃあ、絶対、生きて帰ってきて!」


関平は困ったように太い眉を寄せる。
絶対なんて、約束出来るはずがないのだ。
常に死と背中合わせの戦場へ赴く人間が、100パーセント無事で帰還する保証など、無い。

だけど、気休めでも良いから、「必ず帰る」と言ってくれた方が楽になれるのに。
もしも、の可能性があるかもしれない。
でも…心の奥底では、前向きになんて考えられなくて、悠生は関平の死に怯えるばかりだ。


「悠生殿、どうか、泣かないでください…。拙者、どうしたら良いか…」

「泣いてなんか…っ…」

「ですが…」

「っ…泣いてない!関平どののバカ!!」


どん、と関平の胸を叩く。
悠生の一撃など痛くも痒くも無いはずなのに、関平こそ泣きそうな顔をして、苦しげに息を詰めるのだ。

世界のルールには、従うべきである。
ちっぽけな人間が、大きな世界に抗えるはずは無いから。
個人的な感情で、道を違えてはいけない。
関平は戦場へ出て、儚く命を散らす…それが定めなのであろう。


 

[ 71/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -