祈りのために



過去を思い返してみても、自分から誰かを誘ったことなどほとんど無かった。
適当な理由を付けて断られた時のことを考えると、すぐに怖くなってしまうから。

侍女を通じて、悠生が面会を願ったのは、恐らく暇では無かろう関平だった。
忙しいなら断られても仕方がない、と返事を貰う前から緊張していた悠生だが、なんと関平自ら悠生の部屋まで足を運んでくれたのだ。


「悠生殿、お久しぶりです!」


以前言っていた通り、本当に、子供のお願いは断れないらしい。
爽やかな関平の笑みを見て、悠生はほっと胸を撫で下ろした。

話をするだけなら部屋でも良かったのだが、阿斗が訪ねてくることを考えると少し都合が悪い。
それなので、「一緒に散歩をしてください」と半ば強引に関平の手を引っ張った。
とは言えども城内をあまり出歩かない悠生には、さっぱり道が分からない。


「でしたら、階段を登って屋上に行ってみませんか?あそこからなら、成都の街が見渡せます」

「行きたいです!でも…、関平どの、忙しくなかったですか?」

「拙者も、息抜きをしたかったので。気になさらないでください」


嫌な顔一つしない関平はお人好しなのかもしれないが、嬉しくなった悠生は、繋いだ手をぎゅっと握り返した。
阿斗が弟だとしたら、関平は兄のような存在である。
悠生は優しい関平のことが好きなのだ。
もっと沢山、話をしたい。
ずっとこのまま、仲良く出来たら良いのに。

何十段もある階段をゆっくりと登り、辿り着いた先には青い空が見えた。


「高い……!」

「足元に気をつけてくださいね」


転落防止のフェンスがある訳ではないから、身を乗り出し、足を踏み外したら落っこちてしまう。
だがそれよりも、悠生は目の前に広がる素晴らしい景色に感動していた。
まるで絵葉書にあるような、古い街並みが眼下に広がり、さらに遠くには美しい山々が見える。


「知らない場所なのに…懐かしい感じがします…」

「悠生殿…」

「関平どの、本当に良い眺めですね!」


これが、劉備の国。
皆が必死になって戦い、一から築き上げた、大きな国。
成都を一歩出た外の世界はまだまだ平和とは言えないけれど、夢を見る人々は己の命を懸け、儚く散って行くのだ。

関平も、例外ではない。
しかし彼の場合は、戦死するのではなく、敵軍に捕縛され、処断されて一生を終えることとなる。


 

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