祈りのために



「悠生殿?この問いにはどのような意図があるのです?」

「気になったので、聞いてみただけです」


にこっと笑みを浮かべる姜維だが、笑顔の裏では悠生の考えを読もうとしている。
さすがは諸葛亮の愛弟子だ、若いからと言って侮れない。

姜維が退室すると、一人になった悠生は、侍女が用意してくれた手拭いで、汚れた手を拭っていた。

申し訳なくなるほどに、恵まれた環境を与えられている。
家庭教師が居て、お手伝いさんが居て、どこぞのお坊ちゃんにでもなったような気分だ。


(今日は、馬術の訓練も無いし…趙雲どのは仕事がたまっているって言っていたから、執務室から出られないだろうな)


すると、夕餉まで暇を持て余すしかない。
悠生は阿斗が習い物を終えるまで、自室でじっと待っているのが常だが、今日はどうも落ち着いていられなかった。

悩み事は尽きることを知らなかった。
関羽と関平を救うには、どうしたら良い?
どうすれば、悲しい未来を変えられる?
大事なことは、正しき道を歩むこと…それでも悠生は、歴史を無視しようとも、大好きな人を失うことが耐えられなかった。

今となっては夢物語だが、コントローラーを手にし、いとも簡単に敵を1000人斬りしていた…、もしも、自分にあれぐらいの戦闘力があったなら、関平を追って戦場に飛び込むことも可能だっただろう。
考えれば考えるほど、自分は無力なのだと思い知らされる。
力になりたいのに、どうにもならない。
姜維に褒められた知力だって、まだまだ人の役に立つには頼りない。


(僕には…、関平どのを助けることは、出来ないんだ)


ぎりっと唇を噛み締め、悠生は己の不甲斐なさを嘆く。
居ても立ってもいられなくて、侍女を呼び…そして、相手の都合なんか省みず、無茶なお願いを。

…急に、会いたくなってしまったのだ。
会えなくなるのが、嫌だったから。


 

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