祈りのために



元から矛盾だらけのゲームの世界でも、史実を追うことが、正しいのだと思う。
全ての歴史を知り、理解している訳では無いけれど、出来るだけ、定められた道を歩みたい。


(でも、そうしたら…阿斗がアホになっちゃうんだよな…)


切実な問題である。
このままでは、阿斗が暗君と呼ばれる未来が遠からず訪れるのだ。

左慈と思しき人物に出会ってから数日が過ぎたが、悠生は専ら考え事をしていた。
既に、ホウ徳が亡くなっているのだ。
成都に戻っていた関平も、いずれ荊州に赴くこととなるのだろう。
そして…関羽もろとも呉軍に処刑される。

知り合いだから、大事な人だから助かってほしいなどと、そのように都合の良い考えを貫く訳にはいかない。
だけど、優しい関平が、悲しい最期を迎えると分かっていて、何も出来ないなんて…悔しいではないか。


「…悠生殿。これは何の暗号ですか」

「あ」


姜維先生がお怒りだ。
腕を組み、墨で汚れた書物を取り上げる。
いつの間にか解答用紙では無く、参考書の方に筆を走らせていたらしい。
気付けば机も、服の袖も黒く汚れていた。


「筆って難しいんです。…ごめんなさい」

「いえ、悠生殿に悪気が無いことは分かっていますが…、やはり、隣に阿斗様がいらっしゃらないと退屈ですか?」


それも、一理ある。
どうせなら、阿斗と同じ時間帯に授業を受けさせてくれれば良いのに。
姜維と二人きりが嫌な訳ではないのだが…、少し気を抜くだけで、筆は墨を滴らせるものだから、あまり好きではない。


「ですが、やはり貴方は呑み込みが早い。丞相も感心されているのですよ?」

「えっ」

「才があるようだと。将来を期待なされています」


丞相・諸葛孔明。
諸葛亮とはまだ直接顔を合わせていないが、稀代の天才軍師が自分を認識している…それだけでも名誉なことだ。

もしかすると、姜維は世辞で言っているのかもしれないが、彼はこれから、多くの知識を授けてくれるはずだ。
それを完璧に自分のものとし、阿斗の傍に並ぶに相応しい大人になるためには、日々精進していくしかない。


「姜維どのは…、阿斗さまのこと、どう思っていますか?」

「どう…とは?まあ…、そうですね。好きか嫌いで答えるならば、好いていますよ?阿斗様は蜀の未来を担う御仁。いずれは私も、阿斗様を支えねばなりません」


これもまた、大きな悩みのタネだ。
悲しいことに、姜維は阿斗を劉備の世継ぎとしてしか見ていないのだ。
生涯を通して忠誠を誓うべき、主の子であると。

今現在、悠生が見る限り、阿斗も姜維も互いにそれほど興味を示していないように思う。
もし、二人が不仲であっても正しき未来に支障は無いのだが、果たしてこのままで良いのだろうか。

当然、死者を生き返らせてはいけない。
無双OROCHIはパラレルワールドなのだ。
それならば、死を回避して、生を長らえさせることはいけないことか?
間違いなく、未来は変わってしまうだろう。
でも、確かに悲しみは減る。

関羽らが処刑されなければ、劉備が激昂することも無く、夷陵の戦いは起こらないはずだ。
そうすれば、劉備の時代はもう少し続き、阿斗も君主になるための準備が存分に出来る。


 

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