ある男への挽歌



悠生が目を覚ましたとき、既に夜は明けていた。
幕舎内にはまるで人気が無く、悠生は目を擦ってから、重い腰を上げる。


(いくら何でも寝過ぎだ。起こしてよ…)


内心、愚痴をこぼしながら幕舎を出る。
具合の悪い悠生に気を使ってくれたのだろうが、これでは本当にただのお荷物だ。

見張りをしていた兵卒に頭を下げられ、悠生も同様に挨拶をする。


「あの、阿斗…さまは?」

「趙雲様と共にあちらへ、水質の調査に向かわれています。悠生殿は幕舎で休んでいられよとのことです」

「そっか……ありがとうございました。僕は大丈夫です」


引き留める兵卒に礼を言い、とりあえず其方に向かおうと足を進めた、が…数歩進んだところで、ぴたりと足を止める。
疎外感、と言うのだろうか。
一人でこうしていると…、虚しいのだ。
わざと置いてきぼりにされた訳ではない、心配してくれたからこそ、悠生を起こさなかったのだ。


(自分からなんて…行けないよなぁ…)


くるり、と踵を返し、悠生は教えられた方とは逆方向に歩き始める。
その行動は、阿斗を信頼していないと受け取られてもおかしくないのだが、罪悪感に押し潰されそうになるも、悠生は足を止めることもせず、ただただ溜め息を漏らす。


(変な顔、されたら嫌だし…)


今よりもずっと、幼い頃の話だ。
友達が欲しくて、皆と遊びたくて…「僕もまぜて!」と声をかけたことがあった。
だが、「悠生くんはかけっこも出来ないから一緒に遊んでもつまらない」と言われたときのショックが、未だに忘れられなかった。

どれほどの勇気を費やしたことか。
学校を休みすぎだと指摘され、体の弱さを理由に拒絶される。
生まれつきなのだから、どうしようもないのに。
その時から、悠生は厚い壁を作った。
悲しい想いをするぐらいなら、友達など要らない。

しかし、阿斗が悠生を邪険に扱うことは万が一にも無いのだ。
彼が自分を友達として、大事にしてくれていることはよく分かる。
でも、過去の経験が悠生にどうしようもない不安を抱かせる。

阿斗は…、初めて出来た友達だから。
余計なことをして、嫌われたくなかった。

あてもなく歩いていたら、昨日、阿斗と訪れた湖と建造物が見えた。
相変わらず、その社は不気味で、其処だけ不穏な空間を醸し出している。
湿地帯に足を踏み入れ、もっと近付いた。
無性に探究心をくすぐると言うか、普通に興味があったのだ。


(RPGのダンジョンにありそうな神社だな…)


長閑な村には異質な存在に思えた。
随分と昔に建てられたものらしく、柱は腐り、何のために造られたのかも分からない。
周囲に草が生い茂っているところを見ると、ほとんどの村の人達に忘れられているのだろう。
これがゲームであれば、重要なアイテムや情報が手に入るポイント地点にぴったりだ。


「そのようなところで何をしておる?」

「っ…!あれ…?」


しゃがれた、老婆の声だった。
驚いて振り返れば、悠生よりも少し背の低い白髪の老婆が立っていた。

薄汚れた白い服を着て、杖を手にし、この神社の主であろう彼女は、ぎょろぎょろした瞳に悠生をうつす。
巫女というよりは仙人、仙女のようだ。


 

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