心は憧れ



(…起きてる…?)


横になって眠らないのは、見張りを兼ねているためだろうか。
大人は大変だと思う。
一日中働いて疲れているはずなのに、趙雲は今も周囲に気を配って、阿斗を守っているのだ。

悠生は目を細めて、趙雲を見上げた。
暗がりの中でもよく分かる、筋の通った鼻や、綺麗な形の唇…、趙雲は完璧すぎるほど、端正な面立ちの男だ。
かっこいい、と思う。
ゲームのオープニングムービーで一騎当千する趙雲、鬼神と呼ばれた呂布と対峙し、一騎打ちをする趙雲…、どれを取っても、趙雲は魅力的だ。

強くて優しい人気者、そして名高き英雄…そんな趙雲に、悠生は今より幼い頃から強く憧れを抱いていた。
武の強さだけなら呂布が勝るかもしれないが、それでも悠生は、趙雲のことが一番、好きだった。


(あ……)


彼が寝ているはずがないと、予測はしていたのだが…、ふいに趙雲が目を開けたことにより視線が交わってしまい、悠生は気まずさに口をつぐんだ。
見つめていただけで、悪いことはしていない、だが、寝顔を盗み見ていたようなものだ。
戸惑う悠生の心も知らず、趙雲は優しげな笑みを浮かべ、自然と手を伸ばしてくる。


「悠生殿…目が覚めてしまったのかい?」

「は……はい」


これは、困った。
悠生は思わず身を堅くし、微笑む趙雲から目線を外した。
聞き慣れた声のはずなのに、どうして甘ったるく感じてしまうのか。
女性ならば黄色い歓声をあげるか、感嘆の溜め息を漏らすか…男の悠生でも居心地が悪くなるような低い声に、趙雲の男らしさ、美しさを改めて実感する。


「熱は……、ああ、良かった。下がったようだな」

「っ……、」


阿斗を起こさないようにと小さく囁く趙雲の声を聞いていたら、急に、背筋がぞわぞわと泡立ち、その違和感に悠生は恐怖を覚えた。
熱さを確かめようと額に押し付けられた手のひらまでも、何か酷く恐ろしいものに思えてならない。


(怖い…趙雲どのが…なんで…?)


寒気に身震いするような感覚を悪寒と認識した悠生は、趙雲の手を押し返し、一言、ごめんなさいと呟く。
怪訝な顔をする趙雲。
また、不快な想いをさせてしまった。


「悠生殿。何故、私に謝罪をする?いけないことをした訳ではないだろう?」

「ひ…っ…!」

「……、」


子供だと笑われるかもしれないけれど、頭を撫でられることは、好きだったはずなのに。
髪に触れた手にびくりと過剰反応してしまい、今度こそ趙雲は困惑の色を見せた。
それ以上触れられたら、心臓が止まってしまいそうだ。
はあはあと荒くなった悠生の呼吸音だけが、幕舎内に響く。
熱がぶり返した訳でもないのに、体が熱くてたまらない。


 

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