幸福の世界




悠生は、家族以外の人間が苦手だった。
というより、関わりの無い他人のことなんてどうでも良くなっていた。
大病を患っているという訳でも無いのだが、生まれた時から体が弱く、体調を崩しやすかった。
しかも周りの人と比べて小柄だったためか、悠生は幼い頃から常に、他人からの目線を気にしていた。
鬱々とした気持ちで日々を過ごすうちに小学校も中学校も休みがちとなり、物静かな性格のせいもあるが、悠生には友達と呼べる人もいなかったのだ。

だからと言っては難だが、悠生は専らテレビゲームに時間を費やし、少しは勉強をしながら、咲良が帰宅するまでの間、適当に暇を潰していた。


(この世の中…何が起こるか分かったものじゃないなあ…)


引きこもりで、コミュニケーション能力は皆無。
そんな自分が見知らぬ世界で、子供を相手に語り部になるとは思いもしなかった。



「悠生お兄ちゃん!昨日の続きを聞かせて!」

「うん。どこまで話したっけ」

「えっとね、白雪の姫様が…」


人から好かれる方ではない。
ましてや、純粋な子供達が暗く内向的な自分を慕う訳がない。
だから今の状況は異様でしかなかった。
全てが、変だ。
未だに信じられない、夢ではないのか?


四方が美しい緑に囲まれた、長閑な村。
電気も通っていなければ車も走っていない、スーパーなんかがあるはずもなく、皆が自給自足の生活を送っている。
此処には、ゆったりとした、穏やかな時間が流れていた。
田舎の山奥なら有り得ただろうが、そうではないようだ。

悠生はひと月ほど前、この村付近で行き倒れているところを助けられた。
その際、運が良かったのか…酷い熱を出していたらしく、身寄りのない可哀想な子供と思ってくれた村の人は、口数の少ない悠生から何も聞かず、快く家族に迎えてくれたのだ。
貧しい村ゆえ、人数分以上の飯を食べさせる余裕も無いだろうに。

家族以外の人間に優しくされた経験も無かった悠生だが、混乱の極みの中、気付けば差し出された手を取っていた。
先程まで咲良とゲームをしていたはずなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
いくら考えても時間が過ぎるばかりで、ついに答えは出なかった。

しかし、話を聞けばおかしい点があった。
嘘かまことか…どうやら、此処は蜀らしい。


(1800年前の中国なのか、無双なのか…それが問題だ)


悠生は案外冷静に現実を受け止めた。
不安が全く無かったとは言い切れないが、親切な人に手を差し伸べられ、どうにか生き長らえている。

最近の悠生の一日はこうだ。
陽が昇った頃に起床し、現在世話になっている家の手伝いをしてから、近所の子供達の面倒を見にいく。
忙しく働く村人達は、ゆっくり子育てをしている時間が無く、子供を見ていてもらえると助かるのだそうだ。
迎え入れてくれた皆への恩返しのつもりだったが、これで畑仕事に専念出来る、と逆に感謝されてしまった。
正直言えば、保育士など一番向いていない職業だと思っていたのだが、今は幼い子供達の世話が日課となっていた。


「ねえ、姫様はどうなるの!?」

「母上様に化けた悪い術師のせいで死んじゃうの?かわいそう…」


五人ほどの子供達に囲まれた悠生は、昨日話した物語の続きをせがまれていた。
コミュニケーションも苦手で、人より声量も劣る悠生には、他人に物語を話し聞かせるなど苦痛でしかなかったが、もう慣れてしまった。
意外なことに、子供達はちゃんと耳を傾けてくれるし、興味を持って聞いてくれる。
慕われることには慣れていなくて、少し気恥ずかしかったが、悠生も安心して話が出来た。

無邪気にはしゃぐ子供達は元気すぎて、大人しい悠生には多少なりとも居心地の悪さも感じられるが、同時に羨ましくもある。
…このぐらい、明るい人間だったなら、友達も沢山出来ただろうに。


 

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