過ぎ去った愛
「悠生……、っ、何を…!?」
「寒いから、一緒に寝てたんだよ。やっとあたたかくなってきたんだから、動かないで」
寝起きの阿斗の機嫌を損ねて追い出されたら嫌だから、何も言わせないよう、ぴったりと阿斗にくっついた。
うっ、と唸る阿斗だが、どうやら怒らせた訳ではないようだ。
「ああ…もしや、星彩か?」
「……、うん」
「やはりか。星彩は良き女子だな。趙雲ではなく、悠生を呼ぶなど、侍女には思い付かん」
何で、趙雲どのじゃ駄目なの?
聞いてみたいけど、何も知らない自分が、そこまで深入りして良いはずがない。
「心配した…黙っていなくならないでよ」
「皆、大袈裟なのだ。失踪した訳でもあるまい」
「阿斗は気まぐれかもしれないけど、僕には、そう思えない」
誰かに酷いことを言われた?
それとも、悲しい夢を見たの?
辛い想いをしたけれど、誰にも言えなかったから…ひとりきりになれる場所で、孤独と戦っていたのではないのか。
きっと、気まぐれなんかじゃない。
今の阿斗は、深く傷付いているのだ。
「気まぐれでは無かったら、どうする?」
「じゃあ…今日、一緒に寝ようよ?僕、寝相は悪くないから大丈夫だよ」
「…ふん」
阿斗を苦しめるものの正体は分からない。
彼が趙雲に抱く、複雑な想いの真実も。
だけど、阿斗は悠生を受け入れている。
体に触れることは、許してくれる。
いつか、心の内までも、見せてくれたら。
「暫く、この部屋には来ない」
「どうして?」
「秘密基地だからな。頻繁に通えば秘密が知られてしまう」
私と星彩と、そして悠生の秘密だ、と…何の気も無しに口にする、そんな阿斗の言葉が嬉しかった。
内容はどうあれ、秘密を共有することで、仲間に入れてもらえたような気がして。
阿斗は何も言わず、悠生の手を握った。
年相応の幼い阿斗に触れ、胸が痛くなった悠生は、黙って小さな手を握り返す。
(僕は頼りないけれど、阿斗の支えになりたいんだ)
もっと仲の良い、友達になりたい。
欲を言えば、親友に。
生涯の知音と呼べるような間柄になりたいのだ。
ぎゅう、と力が込められる。
阿斗は子供らしからぬ笑みを浮かべた。
真っ直ぐな悠生の気持ちは、しっかりと阿斗に届いていたのだ。
END
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