太陽の駿馬



マサムネを厩舎に連れ、馬超と別れた後、悠生は前を歩く趙雲に、思い切って声をかけた。


「趙雲どの…、あの…、ありがとうございました!」

「何も気にすることは無い。悠生殿に怪我が無くて何よりだよ。阿斗様が悲しまれる」


そう言われてしまうと…、少し悲しい。
阿斗の友達だから、助けてくれた?
必死になって手を差し伸べてくれたのは、それが趙雲の役目だったから?

正直言うと、悠生は趙雲のことが少し苦手だ。
ただゲームを楽しんでいた頃は、その勇ましさに憧れ、誰よりも大好きだったのに…、今では、怒られはしないかと、そんなことばかり考えるようになってしまった。
目の前に立つこの男は、テレビの向こう側に居た趙雲とは丸っきり違うのだ。


「趙雲どのは、阿斗のことが好きですか?」

「勿論、お慕いしているとも。お生まれになった頃からこうして仕えているのだから」


悠生から見ても、趙雲は阿斗のことを大事にしている。
可愛がっている、と言った方が正しいだろうか、阿斗も趙雲を慕い、懐いているし、二人が並んでいると、まるで親子のように見えてしまうのだ。
阿斗が大人になり、劉禅と名を変えた後も、趙雲ならばずっと彼を支えてくれる…そう、信じることが出来る。

若くして劉備の跡を継いだ劉禅は、結果的に、国を滅ぼしてしまった。
本当の劉禅のことなど悠生には分からないが、早くから、劉禅に君主の器が無いことに気付いた人間も多いのだろう。
それでも、希望を捨てず、最後の最後まで劉禅を信じた人だって居たはずだ。


(僕の頭の中は、阿斗でいっぱいなんだ。趙雲どのの気持ちも、僕と同じだよね)


ひとつ、分かったような気がする。
阿斗は、人を引き付ける体質なのだ。
それは父である劉備の長所でもあるのだろうが、阿斗はとても魅力的で、一度触れてしまえば離れることが出来ない。
バカなお子様と思っても、そんな阿斗が可愛いから放っておけない、つい手を焼いてしまう。

だが、父から受け継いだ長所も意味を成さず、劉禅は近い将来、蜀を衰退させることとなる。
何もしなかったのだ、劉禅は。
趙雲や諸葛亮の死後、信頼出来る者を失った劉禅は、国が傾く様を見ても、独りでは…何も出来なかったのかもしれない。
誰も、彼の心を救ってあげられなかった。
理解することだって、出来なかった。

だったら、誰にも出来なかったことを…、大変なことかもしれないけれど、己の心の弱さに負けた劉禅が暗君と呼ばれてしまう未来を、この僕が…変えてあげたい。


「僕は…阿斗の役に立ちたいです。阿斗が立派な皇帝になるために…出来ることがあるなら…」


いつの日か、姉のことを忘れてしまうのかもしれない。
悠生の中で、阿斗が一番になっていく。
膨れ上がっていく想い、溢れそうな気持ち。
それが姉に対しての裏切りであっても、罪と知っていても、止められないのだ。


「僕は、阿斗が好きです。大事な友達だから、ずっと隣にいて、守ってあげたいです」

「…悠生殿。私は貴方が阿斗様のために何かをしたいと思うのなら、喜んで協力するよ」

「ありがとうございます…趙雲どの…」


もっともっと、頑張って勉強をする。
何でも一人で出来るようにして…皆に迷惑をかけないようにする。

はやく…、早く、大人になりたい。
阿斗をずっと傍で守れるぐらいの力と勇気を兼ね備えた、趙雲のような、強い大人になりたいと思うのだ。



END

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