仄かな光彩



「え…っと、あの…!」

「悠生!星彩も来ていたのか!」


勇気を出して星彩に声をかけたのだが、阿斗の一声により、悠生を見ていた彼女の視線は鍛錬場の中へ向けられてしまう。
阿斗は星彩のことが大好きなのだ。
一目散に駆け寄って、星彩に飛びつくかと思えば、阿斗の視線は悠生に注がれる。


「悠生、ずっと見ていたのだろう?どうだ、私の身のこなしは。関平の槍など物ともせんぞ」

「えっ?うん、凄かったよ!阿斗、あんなにかっこいいんだなって…」


まさか星彩を二の次にするとは思わず、驚いた悠生はいつもの調子で返してしまったが、今は関平や星彩の前だ。
親しい間柄だと知れているのならば、特に問題は無いと思うのだが、此処に趙雲が居たらまたお説教をされていたかもしれない。
内心で落ち込む悠生には気付かず、阿斗は格好良いと褒められたことが嬉しかったようで、どこか誇らしげに、明るい笑顔を浮かべた。


「よし、悠生、星彩。私が関平を打ち負かす姿をしかと見ておくのだ」


そんな宣言をされ、困ったように笑う関平が哀れである。
星彩は、頑張ってください、と阿斗に声をかけたから、悠生は関平の方を見て、がんばれ、と声に出さずに伝えてみた。
分かるかな?と少し不安になったが、関平は力強く頷いてくれた。

今度は、阿斗も身の丈に合った槍を用意し、関平との手合わせが始まった。
予想するが、勝者は関平だろう。
いくら阿斗に才能があっても、まだ子供だ、経験の差は目に見える。
関平だって、いくら阿斗が相手でも、好きな女性の前で無様に負ける訳にはいかないはずだ。

悠生は隣に立つ星彩のことが気になって、手合わせに集中出来なかった。
こっそりと送っていた視線に気付かれてしまったのだろうか、星彩はずっと前を向いていたが、何の前触れもなく、彼女は悠生に声をかけてきたのだ。


「先程、何を言おうとしていたの?前を向いたまま答えて」

「……ずっと、お礼を言いに行けなくて、ごめんなさい。ありがとうございました。僕を助けてくれて。星彩どのが引っ張ってくれなかったら、僕は死んでいました」

「そのことなら、私は役目を果たしただけ。礼を言われる筋合いは無いわ」


勇気を振り絞って想いを伝えたと言うのに、答えは冷たい。
少々きつめな星彩の口調に悠生はたじろいてしまったが、次の言葉は打って変わって柔らかなものだった。


「でも…あなたが生きていて、良かった」


前を向いていろと言われたばかりだが、思わず悠生は星彩を見上げてしまった。
彼女の表情に大きな変化は見られない。
だが本当は、優しい人なのだろうと思った。
彼女が悠生を助けたのは、命令だとか、任務だからとか…、確かに、己の使命として行動したのだろう。
それでも星彩は、悠生の無事を喜んでくれたのだ。


「たとえあなたが、何者であろうとも」

「え……」

「…良いのよ。私は、あれほど楽しそうな阿斗様のお顔を見たのは久しぶり。だから、悠生殿には感謝しているの」


ほんの僅かな間だが、星彩は笑っていた。
悠生は何を言われるのかとはらはらしていたのだが、思慮深い星彩のことだ、彼女なりに、阿斗の身を案じて発言したのだろう。
その笑顔を見てしまえば、阿斗が星彩に惚れた理由も分かるような気がする。


(星彩どのの目は、綺麗だけど…奥の奥まで見透かされてしまいそうだ)


ぼうっとしていた悠生は手合わせのほとんどを見逃してしまったのだが、やはり二人の勝負は関平の勝利に終わった。
それから暫くの間、悠生は星彩と一緒になって、へそを曲げてしまった阿斗を慰めることとなった。



END

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