仄かな光彩



「あれは、護身術…ですか?」

「ああ。いくら守られる立場にあろうとも、自己防衛の術はきちんと学んでおかなければならない」


関平は槍を手に攻撃を仕掛け、対峙する阿斗の方は、何も武器を持っていなかった。
それなのに阿斗は子供らしからぬ不敵な笑みを浮かべ、関平の攻撃を軽々と交わしていく。
そのような顔、悪戯をする時には見せなかっただろうに。

勿論、関平も手加減をしている訳ではない。
こうして見ると、阿斗の運動神経の良さ、そして彼が天賦の才を持っていることが分かる。
やはり、特別な人だと思う。
阿斗もまた、大人になったら趙雲たち無双武将のように、誰にも負けない強い心を得るのだろう。

…だけど、阿斗の聡明さに触れる度に、悠生は不安を覚えてしまうのだ。
暗愚と呼ばれてほしくないと思っているのに、矛盾も甚だしい。
初めて友達になってくれた阿斗が、いつか、手の届かない人になってしまうような気がして…、今は傍に居てくれても、いずれ離れていってしまうのかと思うと、怖くなった。


「悠生殿。貴方が、あの御仁の隣に並ぶのだよ」

「…恐れ多い…です」

「今は遠い存在かもしれない。だが阿斗様は…他ならぬ貴方のことならば、いつまでも待ってくださるだろう」


どうして、そんなことが言える?
何の取り柄も無い自分が、どうして阿斗に好かれているのか、未だに分からないのに。
何処にでもいるような平凡な人間が本当に、蜀の皇帝となる劉禅の人生を変えるほどの存在に成りうるのか?

答えが欲しくて趙雲を見上げれば、彼は完璧な微笑みで、悠生をはぐらかすのだ。
自分で考えなさい、と言わんばかりに。


「趙雲殿、此処に居られたのですね」

「星彩?私を捜していたのか。すまない」

「いえ。諸葛亮殿がお呼びです」


悠生はぎょっとした。
趙雲を呼びに現れた女性が、星彩だったから。
冷たくも美しいその顔を見た途端、悠生は命を助けてくれた星彩に礼を言っていなかったことを思い出した。
今まで忘れていたなんて…どれほど失礼なことをしたのかと申し訳なさを覚える。


「諸葛亮殿が私を?仕方がない…星彩、少しの間、悠生殿と共に居てくれないか?」

「分かりました」


趙雲が行ってしまうと言うことは、阿斗達が此方の存在に気が付くまで、星彩と二人きりになってしまう。
一瞬、星彩と視線がかち合い、反射的に逸らしてしまった(いい加減、失礼な態度を取りすぎだ)。

礼を言うことも大事だが、まずは星彩に謝らなければならない。
悠生を救おうと必死になっていた星彩に反抗し、最終的には嘔吐して気を失ったため、彼女には何も伝えられていないのだ。
あの場面で、星彩が手を握ってくれなかったら、阿斗とだって友達になれなかったかもしれないのだから。


 

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