仄かな光彩



かつて、趙雲は長坂の戦いで、当時まだ乳飲み子であった阿斗を救うために、たった一騎で戦場を駆け抜けたと言う。
ファンならば誰もが知る、三国志演義の名場面だ。

この世界での趙雲は、阿斗の教育係のような立場にあった。
しかし、趙雲は悠生にも学問を教えることになったため、趙雲と阿斗が共に過ごす時間は減ったのかもしれない。


「趙雲どのは、一日をどんなふうに過ごしているんですか?」


ふと、気になったので聞いてみた。
自室に二人きり、趙雲は悠生に課題を出して、自身は執務を終わらせようと書簡に目を通していた。

悠生は毎日勉強に励んだ結果、筆の扱いにも大分慣れ、難しい漢文も、短文であれば読み書きが出来るようになったのだ。
自分は記憶力が良い方だと思ってはいるが、もっと努力しなければ、人の役には立てないだろう。


「悠生殿や阿斗様と過ごす時間外は、鍛錬や部隊の訓練・演習を行い、定期的に行われる軍議に参加し、執務を片付けて余裕があれば近隣の村へ視察に行く…、それぐらいだな」


つまりは、忙しい人なのだ。
そんなにも多忙な趙雲が、悠生のために使える時間など少しも無いだろうに。
彼のスケジュールに無理矢理割り込んでしまったのか、何かしら予定を削らせてしまったのか。
よくよく考えてみれば、一番確かな可能性として、悠生に与えられた時間は、彼が阿斗に割いていた時間だった。


(じゃあ、誰か他に新しい先生が増えたのかな?)


阿斗は今、鍛錬場で武芸を習っているはずだ。
今までサボりがちだった彼が真面目に取り組んでいるとなると、教える方も気を抜いてはいられないだろう。
我が儘王子の機嫌を損ねないよう指導をする、子供の扱いが得意な師匠…趙雲以外に、適任者が居るとは思えない。


「趙雲どのは、阿斗の武芸も教えていたんですよね?阿斗は強いですか?」

「あの御方は強くなられるだろう。才は持っておられるのに、これまで怠けられていた。そうだな…先程出した課題を終えたら、見学にでも行こうか?」

「見学…行きたいです!」


蜀の未来を担う阿斗の強さを…と言うより、友達が頑張っている姿を、この目で見てみたいと思ったのだ。
趙雲の提案に喜んだ悠生は、すぐさま課題を終わらせた。


趙雲に連れられて鍛錬場に来てみれば、この時間は阿斗のために貸し切られているのか、その広い空間に居たのは、たった二人だけだった。
しかも、阿斗の先生をするには意外な人物の姿を見て、悠生は目を丸くする。


(趙雲どのの代わりの師匠って…関平どの?怪我をしているのに?そもそも、関平どのは戦の途中で…)


別に驚くほどのことでもないのだが、阿斗と関平の組み合わせは予想もしていなかった。
阿斗は星彩に恋をしていて、彼女の幼なじみである関平のことを敵視していたはずだ。
命令であれば関平も断りようがないだろうが、このような短期間で傷が癒えるとは思えないし、そんな状態で阿斗と手合わせをさせるなんて、関平が可哀想だ。
城中をくまなく捜せば、他にも阿斗の師となる適任者が居るかもしれないのに。


(関平どのも気を使うだろうな…大変だな)


手を抜くことも許されない、だからと言い、阿斗の体に傷を付ける訳にもいかない。
気まずすぎる空気の中で指南をしなければならない関平の心境を考えると、同情せずにはいられなかった。
恋愛に疎い関平は、阿斗にどのような目で見られているか、気付いていないのだろう。
それがさらに阿斗を苛立たせる訳だ。


 

[ 41/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -