はじまり
悠生はフリーモードでステージ選択をし、着々と戦闘準備を進める。
主に咲良は2P側で、戦を楽しむと言うよりはキャラクターを眺めることを目的としているため、設定などは全て悠生に任せっきりだった。
原点である三国志についても、咲良はあまり理解していなかったが、悠生は分厚い本を何度も繰り返して読むほどに熱中している。
弟の生き生きとしている姿を見ていたくて、咲良はこうして隣に座っているのだ。
「僕さ、最近ね、趙雲の夢を見るんだ。中身はあんまり覚えてないけど、凄くかっこ良かったよ」
「ゲームのしすぎ!と言いたいところだけど……私も、よく夢に見ちゃうなぁ。貂蝉とか、小喬とか、とにかく可愛いの!私もゲームのやりすぎなのかもしれないね」
「咲良ちゃんのは可愛いキャラに囲まれたいって妄想が具現化したんでしょ?」
当たらずといえども遠からず、断言されてしまい、咲良は反論出来ずにううっと唸った。
そんな咲良にはお構いなしの悠生だが、咲良の可愛いもの好きは今に始まったことではないのだ。
無双の夢を見た。
本当に、ゲームのやりすぎなのだろう。
これからは少し、自重しなければ。
「あ」
武器や馬を選択し、勝敗条件を確認、いざ出陣というところで、急に画面がフリーズしてしまった。
悠生は暫くコントローラーのボタンを押しながら画面を見つめていたが、一向に変化は見られない。
「あれー、咲良ちゃん、バグったのかな?電源も消えないし……」
「本当?」
悠生は一度リセットしようとの電源ボタンを押したが、やはりフリーズしたままだ。
どうしたものか…、と二人が悩んでいると、突然BGMが変わった。
ゆったりとして、切なげで、だけど伴奏だけで、肝心の主旋律が聴こえない。
懐かしくもあり、どこかで聴いたことがあるはずなのだけど、どうしても思い出せない。
そして、消え入りそうな、声がした。
『どうか、道を…!』
「なに、この声は…?」
「咲良ちゃん!?」
「え…ちょ、何!?悠生…!」
光、が。
テレビ画面から眩い溢れだした光が、二人を包み込んだ。
互いの名を呼ぶも虚しく、あまりもの眩しさに視界は真っ白になった。
直接頭に響く、美しい旋律、と誰かの声。
『…どうか、道標となって…!』
――彼らは、道を知っている。
掛け替えのない者達の、歩むべき道を。
END
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