永久の軌跡



「ん…ぅ……」


酸素が足りず、意識が薄れ行くだけで頭が回らない。
このままでは本当に、いつかの言葉通りに、キスで窒息死させられてしまうかもしれない。
だが、酷く苦しいのに、心地が良いのだ。
悠生を決して手放す気はない、趙雲が本気であることを身を持って知り、悠生の決意がどろどろと溶かされる。
この人からは、逃げられない…。

ついには自ら舌を差し出し、悠生はより深い口付けを求めてしまっていた。
全てを、趙雲に委ねることにしたのだ。
情欲も抱いたことがないであろう悠生の拙いながら初々しい反応に、夢中で唇を貪っていた趙雲は漸く悠生を解放する。
唾液の白い糸が引くのが、背筋が泡立つほどに恥ずかしかった。


「貴方を手放すぐらいならいっそ、今この場で抱き殺してしまいたい。それほどに私は、悠生殿が愛しいのだ…」


耳に直接、掠れた低い声で愛の言葉を吹き込まれてしまい、悠生はどうしようもないぐらいに頭がくらくらしていた。
ただ、太公望の言った通り、旅立ちは延期になるだろう…、そのことだけは確信せざるを得なかった。


「ま、まだ…死にたくない…です…僕は…趙雲どのと、阿斗と一緒に、同じ世界で、生きていたい…大好きだから…」

「ああ…!悠生殿の心、確かに…」


ぎゅうと強く抱き締められ、もっと近くに趙雲のあたたかさを感じる。
包み込まれることに、安心感を覚えた。
泣きたくなるぐらいに幸せ、だった。
好きな人に愛されること、これ以上の幸せなど、きっと無い。


(咲良ちゃん…ごめんね…僕はやっぱり…)


趙雲の向こう側に広がる青空が眩しくて、悠生は目を細めた。
…この世界を、阿斗の国を守りたいという気持ちは変わらない。
だけど今は…、少しだけ、幸せの傍に寄り添うことを許してください。




荒れ果てた世に、平和が戻った。
一時的なものかもしれない、それでも人々は、崩壊した国を立て直そうと前向きに生き、戦が終わったと言うのに日々を忙しく過ごしていた。
三国と、そして融合した戦国の日本。
遠呂智によって乱された世界が元に戻ることはなかったが、皆は暗黙の了解として、一時的な休戦協定を結んだ。
まずは、戦によって苦労をかけた民の暮らしを楽にしてやりたい…どこの国も同じ考えだったのだ。


「燃えちゃったんだね、阿斗の桃の木…」

「残念だが、成都も戦場となったのだから、致し方ない。満開の桃の花を、悠生に見せたかったのだがな…」


悠生は阿斗と二人で、焼け野原となった成都の桃園を歩いていた。
戦火に巻き込まれ、立派な木が並んでいたはずの其処には、炭となった木が折り重なるように倒れているだけだった。
阿斗と交わした、約束の場所。
いずれ、庭園をいただく予定だったのだが、桃の木は全て犠牲になってしまった。

ふと阿斗は立ち止まり、そして笑った。
地に膝をついた阿斗につられるようにして、悠生も屈んで視線を巡らせる。
生き残った桃の木は、一本も無かった。
それなのに、青々とした小さな芽が、地の間から、顔をのぞかせていたのだ。


 

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