永久の軌跡



「僕はもう子供じゃありません。今までだって蜀の皆と離れても、ずっと、頑張ってきたんです。心配しないでください…後少し、頑張るだけですから…」

「もう…十分でしょう…悠生殿の努力、拙者も存じております。貴方が更なる苦難に立ち向かう必要など、ありません」


本当に、優しい人…、おかしいぐらいに。
悠生は両手で耳を塞ぎ、べっと舌を出す。
もう何も聞いてやらないんだ、と幼い子供のように振る舞ってみせた。
唖然とする関平を余所に、悠生はぶふっと噴き出し、今度こそ満面の微笑みを見せた。


「僕、関平どののこと、大好きですよ」

「なな、なっ…その…拙者も…」


関平はかっと頬を赤くして、わたわたと挙動不審になっている。
大袈裟に受け取って、本気にしてしまう関平が、とても好きだ。

悠生はマサムネの手綱をくいっと引っ張る。
この隙に逃げ出そうと促すが、利口なはずの愛馬が、何故か他人ごとと言った様子で視線を背けるのだ。
意志疎通なんておてのものだったはず、お願いを無視されたことに驚く悠生だが、どこからともなく響き渡る軽やかに駆ける馬の足音を耳にした途端、マサムネは瞳を輝かせる。
主人の幸せを、誰よりも望む相棒だから。
本当は、悠生の旅立ちだって喜ばしく思っていなかったに違いない。


(まさか…っ…)


悠生ははっと息を呑み込んだ。
雪のような色をした白馬が、颯爽と地を駆ける。
確か、白龍と名付けられた…美しい毛並みの馬は、趙雲の相棒だ。
馬上の男と目がかち合い、悠生の鼓動ははちきれんばかりに跳ね上がった。
あろうことか、趙雲が自ら迎えに来てしまったのだ。
とっさに俯くが…、逃げきれないだろう。
だから、早く此処を立ち去りたかったのに!


「すまない、関平殿。悠生殿を引き留めてくれたこと、感謝致す!」

「趙雲殿!貴方こそ、よく来てくだされた!どうか悠生殿をお引き留めください!」


関平はほっとしたように趙雲に後のことを託したが、その言いようでは、悠生が黙って旅立とうとしていたことが知られてしまうではないか。
戸惑う悠生の心など理解出来ないのだろう、関平は気を利かせたつもりでそそくさと此の場を後にし、悠生と趙雲を二人きりにするのだ。
これだけは回避したかったのに…、よもや最悪の展開を見ることとなるとは。


「悠生殿」

「……、」

「…私は、自惚れていたのだろうか」

「え……?」


趙雲の口から発せられた弱々しい声を聞き、悠生は自然と顔を上げた。
馬から下り、此方を見下ろす男の端正な顔は情けなくも歪んでいる。
このまま泣いてしまうのでは、と逆に心配になるほどだ。


 

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