永久の軌跡



「…どうしたの?」


全速力で悠生を追い、肩で息をしていた関平が、太い眉を寄せる。
息苦しいのは、全力疾走したから…それだけでは無いはずだ。
悠生の声があまりにも淡泊で、関平は何らかの異変を感じ取ってしまったのだろう。
これには悠生自身、失敗したと思った。
無茶をしようなどと、余計なことを知られてしまっては面倒くさいことになる。
関平は優しい男だから、絶対に引き止め続けるはずだ。
だが今は、そんな優しさは必要無い。
心が乱されるから、そっとしてほしい。


「何処へ行かれるのですか?貴方の帰る場所は、此処にあるではありませんか」

「お守りも返してもらえたし…、お姉ちゃんを捜し出して、渡しに行こうと思ったんです」


悠生は出来る限り明るく笑って見せた。
完璧なように見えて、心に嘘を付いた笑顔。
これ以上、介入してこないで…、と無言で訴える悠生の笑みは、またもや関平を惑わせる。

悠生の義姉である美雪が亡くなっていることは、関平も知っているはずだ。
以前、関平に託した指輪のお守りが、美雪に与えられたものであることも。
新たな敵を倒しに行くために蜀を離れようとした事実をひた隠し、良いように理由を語った悠生だが、関平の表情は堅い。


「そして、黙って行方を眩ますおつもりですか?」


関平も負けじと、食ってかかるように問い掛ける。
黙って旅立つことは、いけないことだろうか。
関平とて、この戦が終わったら蜀を離れ、武の修行の旅に出るつもりではなかったのか。
悪いことをしに行くのではないのだから、引き止められる筋合いは無いだろう。


「大好きな人が治める世界を、この目で見て旅するのも悪くないと思います。伝えてくれませんか?桃の花が咲く頃に、戻ってくるからって」


何を言っても苦しい言い訳にしかならないと思い、悠生は些か沈んだ口調で語った。
心配げに見詰めるマサムネに寄り添い、悠生は関平に向かって小さく手を振ってみせる。
どこまでも純な関平と話していると、己が自分勝手な人間に思えてならないのだ。

阿斗と交わした約束は、必ず守る。
彼がいつか大人になり、劉備の跡を継いで蜀の皇帝となって、立派に国を治める日が来たら、…その時までには、傍に戻りたいと思う。
だが、国を守るためには、どうしても世界を守りに行かなくてはならないのだ。

だから今だけは、一人にしてほしい。
気が済むまで、自由にさせてほしい。
罪悪感から逃れるために、幸せを遠ざけようとしていただけなのに。
そんなふうに言われたら…、耐えられなくて、泣いてしまいそうだ。


 

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