永久の軌跡



「貴公には無限の可能性が秘められている。あの女禍でさえ、己の身を削って春の娘を覚醒させたと言うのに、貴公はいとも簡単に趙雲将軍を覚醒させた。あれは美雪の力によるものではない。悠久…貴公が持ち合わせていた力なのだよ」

「趙雲どのの覚醒が、僕の力…」

「私の元で修行を重ねれば、さらに強大な力を得ることが出来よう。旅に出るのは、それからでも遅くないと思うが?」


悠生は胸に下げた指輪を、ぎゅっと握り締めた。
いつも、自分は誰かに守られていた。
何と言っても、西王母に愛された子供なのだ。
だから、奇跡を起こしたとしても、それが己の力によるものだとは、指摘されたって信じることが出来ない。

覚醒した趙雲の驚異的な強さ、冷たくも美しいその姿…思い返すだけで、胸が熱くなる。
普段の趙雲も十分魅力的だが、覚醒した趙雲は、比較するものが思い付かないぐらいに、格好いいのだ。
頬を僅かに赤くさせた悠生を見て、太公望は声も出さず静かに笑う。


「私は今すぐにでも貴公を受け入れたい。だが、急ぐ必要は無いのだ。貴公はまだ幼い。今少し、人の子の国で過ごすべきかもしれぬな。何、貴公には帰る場所があろう?」

「でも…僕は…」

「落涙は己の選んだ道を突き進んだだけだ。貴公は、己の感情を殺し、偽りの道を歩くつもりか?」


そうでもしなければ、耐えられないのだ。
最後まで、他人のために生きた咲良のことを知っているから。
幸せになりたいと思うこと事態に浅ましさを覚えてしまう。
だから、悠生は理由をつけては阿斗や趙雲から逃げようとしているのだ。
今までも、そしてこれからも、めいいっぱいの愛を与えてくれたであろう、最愛の二人から。


「ひとつ、予言しよう。貴公の旅立ちは否が応でも阻止されるだろう」

「そ、そんな予言…困ります…」

「困る、か。では私は、順番が回ってくるまで傍観に徹するとしよう。時が来たら迎えに行く。いつになるかは分からぬがな」


皮肉めいた笑みを浮かべる太公望は、散々に悠生を困らせた挙げ句、何事も無かったかのように姿を消した。
ざあっと強い風に煽られ、マサムネの鬣がさらさらと流れる。
黒々とした瞳は悠生を信じきっていて、身を案じるように、すり寄ってくるのだ。


「とりあえず…此処を離れようか…」


悠生はマサムネに笑みを見せ、かつての荘厳な佇まいの影も形も無くなってしまった古志城に、背を向ける。
さようなら、と小さな呟きだけを残して。


「待って!待ってください!」


手綱を引いて歩き出した悠生を、呼び止める男が一人。
聞き覚えのある親しい者の声に、悠生は思わず足を止めてしまう。


(関平どのだ…どうして…)


何にも知らないはずの関平が、必死になって悠生を追ってきたのだ。
何故、彼が此処に…と悠生は思い当たる節を探るが、一応の顔見知りである太公望に唆されたのでは、などと可能性を導き出すものの、確信は持てない。
でも大丈夫、この男が相手なら、きっと上手く逃げられる。

振り返る前に深く息を吐いた悠生は、表面上は冷静さを保っていた。
しかし内心では、心臓の音が不快に感じるほどに緊張している。
心の叫びを聞きたくなくて、無意識に感情だけを殺してしまったのだろうか。


 

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