栄光の宮殿



妲己の激しい叫びが、悠生の胸に強く響いた。
本当は、孤独だったんだって。
彼女自身、気付いていないかもしれない…その悲しみを想像し、悠生は無性に切なさを覚えた。
かつて、阿斗が取り除いてくれた悠生の孤独。
妲己の心を癒す者は、未だ現れない。


「寂しい…ですか…?独りは、苦しいでしょう?」

「何てこと言うのよ!!ふざけないでよ!!」

「僕は…一人でも友達が居たら、寂しくないです。もう少し、待ってみてください。きっと素敵な友達が、出来るから…」


だから今は、どうか退いてくれ。
苦しみの果てに、妲己は掛け替えの無い人に出会えるはずなのだ。
やっていることは卑劣でも、彼女は悠生が愛した無双武将の一人である。
甘い奴だと言われようとも、寂しさを抱えたままで、死んでほしくなかった。

悠生は妲己に向けて弓を構え、早く行かなければ弓を引くと、無言で逃亡を促す。
三成や曹丕が悠生の考えを察するよりも早く、妲己は悔しそうな顔のまま身を翻し、高く飛んだ。


「やめてよ…!同情ほど屈辱的なものは無いわ。もう相手してあーげないっ。さよならっ!!」


妖玉を投げつけた妲己は、舌を出して捨て台詞を吐くと、再び炎の中へと消えていった。
遠呂智の元へと、戻ったのだろうか。
誰が見ても明らかな劣勢、彼女に勝ち目は無いと言うのに。
だとしたら、遠呂智が敗北したら、妲己はすぐさま遠呂智復活のために行動を起こすだろう。
それだけは何としても、止めなければならない。


(咲良ちゃんがこの戦を終わらせるなら、僕は次の戦を終わらせよう。それが、僕の役目なんだ)


手にしていた弓を光の粒に戻した悠生は、改めて三成の顔を見つめた。
燃え盛る炎に照らされ、首を傾げる三成のさらさらとした茶髪に赤が射しているように見える。


「三成さま、ごめんなさい…妲己を…」

「気にすることはない。遠呂智と妲己、一度に打ち倒せば良いだけだ」

「ふ、三成よ、お優しいな」


曹丕がくつくつと笑うが、三成は肩を竦ませ、さらりと聞き流す。
妲己をみすみす逃がしたことを二人に咎められず、悠生は心から安堵した。


「僕、そろそろ蜀の皆のところに戻ろうと思います」

「そうか…そうだな。悠生の帰る場所は、俺の傍では無かった。最早、貴様の力を借りずとも良いだろう」

「三成さま…ありがとうございます…」


三成は少々残念そうだったが、彼は悠生のことを一番に考え、許してくれた。
しかし、蜀軍へ戻る、などとただの言い訳に過ぎない。
古志城から離れ、独りになる…そのために都合の良い、でっち上げた理由だった。


 

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