栄光の宮殿



目の前にそびえ立つ古志城に火を放つ…、しかも、三成は悠生の手を借りるつもりなのだ。
彼の強気な発言に、悠生は狼狽えた。
確かに夷陵では火計を行ったが、あれは三成の指示によるもの。
策を防げたのも、結果的には三成の機転のおかげである。
曹丕は信じられないと言ったように三成を見返していたが、やがて小さく溜め息を漏らし、兵なら貸すから好きにしろ、と呟いた。
従来のイメージから、曹丕はもっと近寄りがたい男かと思っていたが、意外にも協力的である。
それだけ、曹丕と三成の仲が…絆が、深まっていると言うことなのだろうか。


「さて悠生、細かいことは気にするな。貴様は古志城に向けて矢を放てば良い。曹丕の兵達が道を切り開いたら、それに続け」

「あ、あの…三成さま…」

「何だ、俺に従うのは不満か?」


眉間に皺を寄せる三成にびくりとし、とんでもない!と悠生は首を横に振る。
今もまだ、古志城内に囚われて居るであろう阿斗のことを気に掛けているのだ。
混乱に乗じて逃げ出してくれることを祈るが、万が一、劉備と一緒に炎に巻き込んでしまっては、蜀の皆に顔向け出来ない。

悠生の慌てようがおかしかったのか、三成はすまないなと口にしながら、柔らかな笑みを見せるのだった。
普段、これほど無防備な表情を見せたりはしないのだろう、火計部隊に選ばれた兵達は、皆が同じ顔をして驚いていた。
横から様子を眺めていた曹丕も、意外そうに三成を見ている。


「古志城は、残っていたらいけないものだと思います。だけど…此処は、遠呂智の墓場になります。だから、全てが終わったら…少しで良いから、皆で、花を手向けてほしいんです」

「これはまた…突拍子も無いことを…。貴様は、遠呂智のため花を備えたいのか?」

「…はい。遠呂智は皆にとって悪い存在だけど…悲しい人です。一人で眠るのは、可哀想だから…」


人々の恨みや憎しみをぶつけられ、永久の眠りにつく魔王。
遠呂智を哀れむような言葉を口にしては、皆に疑念を抱かれかねない。
だが、遠呂智を倒して終わりではないはずだ。
二度と悲しみを繰り返させないために、遠呂智の眠る奥津城を守らなければならない。
社を建て、墓標を立て、御霊を慰めよう。
沢山の花を植え、遠呂智の中に根付く寂しさが、少しでも薄れるように。


 

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