追憶の子守唄



「誰かを…関羽さまを、庇って…?」

「どうしてお分かりになったのですか!?いえ…拙者、父上の御身に何かあってはと…無我夢中で飛び出したのですが…」

「それで、怒られちゃったんですね」


そうでしょう?と首を傾げてみれば、関平は苦笑するばかりだった。
関羽は己の身を守るために息子が傷付き、嘆き、怒ったのだ。
いくら軍神と崇められようとも、関羽は一人の父親である。
本当は心配だけど、そんなことを言えるはずもないから…息子の傷が癒えるまで、関羽は関平を戦場から遠ざけたいのだろう。

互いを強く想い合う親子の絆を目の当たりにした悠生は、とてもあたたかな気持ちになっていた。
関平は、簡単に諦めるような男ではない。
傷が癒え、関羽の許しを貰えたら、再び戦場に向かうつもりなのだ。
どこまでも真っ直ぐな、優しい人だから。
その先に、親子の悲しい結末が待っていたとしても、今は知らないふりをしたい。
今だけは、定められた歴史の流れを…物語の続きを、無視したかった。

こうして、すぐ傍で言葉を交わしていくうちに、関平とも大分、打ち解けることが出来たような気がする。
それは関平が優しいからに違いないが…調子に乗った悠生は、また関平に無茶な要求をした。


「関平どの、子守歌、聞きたいです」

「歌!?悠生殿っ、あまり拙者を困らせないでくだされ…!ご覧の通り、歌は不得意で…」

「でも、唄ってくれたらちゃんと寝ますから。子供のお願いは、断れないんでしょう?」


うっ、と言葉に詰まる関平。
悠生は自覚してやっているのだが、ここぞとばかりに関平に甘えているのだ。
それは関平が人一倍お人好しで、酷いことは絶対にしない、心から信頼出来る男だと悠生が認識しているためだ。
勿論、ゲームをプレイしてのイメージでしかないのだが、本当の関平は、これから知っていけば良い。
きっと、彼なら受け入れてくれる、そんな気がした。

期待を込めた瞳で見つめたら、関平は困り顔をして暫く悩んでいたが、ついには諦めたらしく、頷いてくれた。


「…歌を唄うなど…久しいことだ…」


ふう、と息を吐いて、静寂に満たされていた空間に紡がれる歌。
関平のあたたかさを感じながら、悠生は彼の穏やかな歌声を聞いた。

そしてすぐに、違和感を覚えた。
彼の口から発せられる不思議な響きの言葉は、紛れもなく中国語。
今まで、皆の言葉は日本語に変換されて聞こえていたし、悠生の言葉も相手にはきちんと伝わっていたのだが…


(意味は分からないけど、綺麗な歌…)


関平が宣言した通り、彼の歌はお世辞にも上手とは言えない。
何度も音を外すし、裏返るし。
それなのに心地よく感じられるのは…彼が悠生のために、心を込め唄っているからだ。

唄う関平に抱きつき、目を閉じる。
あれほど目が冴えていたのが嘘のように、急激に睡魔に襲われる。
もっとこの美しい歌を聞いていたい、そう思ったが…とろとろと意識が微睡んで…


「……、おやすみなさい、悠生殿」


悪夢など、見るはずがない。
関平のぬくもりは、明け方近くまで悠生の傍にあったのだから。



END

[ 40/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -