栄光の宮殿



ぎゅっと手を繋いで、一緒に眠ったことが何度もある。
悠生にとっては、母親よりも近い存在だった。
三つ年下の弟を、咲良は自身がまだ幼い頃から、可愛がっていた。
悠生だって、優しい咲良が大好きだった。
髪から香る柔らかな匂いも、あたたかな温もりも…心地よい笛の音も、物心が付いたときからずっと身に感じていたはずなのに。
胸がいっぱいになって、涙を堪えるのが精一杯だった。


「咲良ちゃん……!」


たまらなくなって名前を呼ぶが、ついに引き止めることは出来なかった。
じゃあね、と手を振る姉の頬は濡れていた。
だけど、微笑んでいた。
悠生の記憶に残る、大好きな笑顔で。
連れ添っていた貂蝉と共に、光に包まれる咲良を見て、思わず手を伸ばそうとしたが、呂布に止められてしまう。
もう、時間が無いのだ。
咲良は役目を果たすため、遠呂智の元へ向かわなければならない。
死に続く道へと、己の意志で足を踏み入れるのだ。


「咲良ちゃん…頑張って…」


消え入りそうなか細い声で、呟いた。
悠生は頬に涙を伝わせ、肩を震わせる。
どうしても、咲良の前では泣きたくなかった。
不安にさせてしまうと思ったから。
此の世界で生きると決めたくせに…いざ、お別れとなると寂しくてたまらない。

世界で一番、大好きだった。
だけど、一番が増えてしまった。
そして悠生は、姉よりも友を選んだ。
この判断が、間違いだとは思わない。
だから、泣いてはいけないのだ。


呂布の手に掴まり、自らも光に包まれ、悠生は元居た古志城の砦へと戻ってくる。
そこに、趙雲ら蜀軍の姿は無かった。
きっと、先へ進んだのだろう。
大切な決戦を控えているというのに、悠生一人を待っては居られないのだ。
その時の趙雲の心を思うと、胸が痛むが…致し方ない。

代わりに、はためく曹魏の旗が目に付いた。
突如として古志城に現れた魏軍の兵が、砦を囲むようにして、呂布に狙いを定めていたのだ。


「獣よ、悠生を返してもらおう」

「三成さま…!?」


かつて、一時期ながら従っていた、三成が鉄扇を此方に向けていた。
更に、三成の傍らには曹丕が居る。
芯が強く、鋭い眼差しは、呂布にも劣らない。
…彼らもまた、援軍に来てくれたのだ。
国や時代の隔たりなど気にせず。
遠呂智を打ち倒し、世の平安を取り戻す…同じ志を成し遂げるために。


 

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