煌めきの祝福



悠生は官渡で出会った小春のことを思い出していた。
彼女は仙人・女禍の力を授かり、実母の大喬と似た風貌で覚醒し、力を得ていた。
では、趙雲は何故覚醒したのか?
悠生の祈りを聞き入れ、西王母が力を貸してくれた…それが確かなら、この現実も納得がいくが、趙雲のあまりに美しい姿を見ていると、素直に事実を受け入れるには時間がかかりそうだった。


「化けたか、面白い」


呂布は狼狽えることもなく、重力に逆らって空に浮かぶ趙雲を些か楽しげに見ていた。
それに反し、趙雲は感情まで封じたかのように顔色一つ変えず、槍を呂布目掛けて振り下ろす。
旋風を纏う槍を受け止めた呂布だが、その威力を直接的に身に感じ、初めて眉を潜めた。
攻撃こそ弾き返したが、呂布の自慢の武器・方天画戟が凍り付き、大きな亀裂が生じていたのだ。


「俺の武器に傷を付けただと…!?ふざけるな!!」


小さな氷の粒をまき散らし、趙雲は容赦なく呂布に攻め掛かる。
槍を突く手はいつにも増して素速く、悠生の目には追うことも出来なかった。
油断すれば、串刺しになってしまいそうな攻撃を受け止める呂布も、守ることだけに専念しなければならない状況に陥る。
形成は逆転…、悠生の望んだ通り、趙雲の勝利が約束されたようなものである。

だが…、悠生は唇を噛み、息を殺して趙雲を見つめた。
このような時に、何を甘いことを…と自分でも思うのだが、悠生は呂布の身を案じていたのだ。
呂布は咲良のことを気にかけ、守ってくれた。
そんな彼の命が趙雲の手によって奪われる様を、素直な気持ちで見届けられるはずがなかった。


「ぐあぁっ!!」


喉が潰れたような声で、呂布は絶叫する。
大地に深く突き刺さる方天画戟。
悠生も固唾を呑んで見守るが、呂布の体のどこにも、貫かれた様子は無い。
死に至るほどの出血が見られないのだ。

よくよく見てみれば、趙雲は槍の切っ先ではなく、柄の方で呂布にとどめを刺していた。
地に伏せる呂布を見下ろし、趙雲は抑揚も無く呟く。


「お前を死なせることを、悠生殿は望んでいない」

「愚かな…っ…その甘さが、貴様の命取りとなるぞ…!!」

「全ては、悠生殿の願いだ」


苦しげに這い蹲り、声を絞り出す呂布の首根っこを掴む趙雲は、美しくも恐ろしい、そして今まで見たこともない冷たい顔をしていた。
その声色や視線からは、普段の優しさは感じられないが、悠生のことを想ってくれる…、覚醒して姿が変わっても、趙雲の心は生きているはずだ。


 

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