煌めきの祝福
「いざ、参る!!」
地を蹴り、高く跳躍する趙雲。
呂布は方天画戟を回転させ、趙雲の槍をものともせず、その刃先で受け止める。
周囲に飛び散る鮮やかな火花が、その衝撃を物語っていた。
二人の武力は他に比べれば並外れたものだが、体格的に見ても、その力は圧倒的に呂布が勝っている。
だが、趙雲が戦人として生まれ持った天賦の才は、呂布にも劣らない。
互いに勝機はある…、それでも、ただ見ていることしか出来ない悠生は、生きた心地がしなかった。
(僕が手を出したら…呂布どのは趙雲どのを認めてくれない…だけど…!)
無双の力が備わっていなくとも、悠生は、兵卒や足軽とは違い、戦うための稀有な力を持っている。
戦おうと思えば、戦えるはずなのだ。
だが、一騎打ちの邪魔をすれば呂布は怒り、咲良のためにと避けていた悠生にまで手を出すかもしれない。
そうなれば趙雲は必ず、悠生を庇うはずだ。
迷惑をかけたくないし、二人の戦を壊してしまうのは嫌だ。
この一騎打ちは、人々が未来へ進むための重要な役割を担っているのだから。
呂布にも通用する武の持ち主でなければ、遠呂智に会うことも許さないだろう。
何としても勝たねばならないのだ。
そして、呂布に武を認めさせなければ。
(趙雲どの…苦しそうだ…)
いくら趙雲ほどの将でも、呂布を相手にし、無事でいられるはずがない。
これは、現実なのだ。
斬られれば血が出るし、痛みも感じる。
呂布の容赦ない攻撃に、趙雲が傷付いていく様を、悠生はじっと見つめていた。
一度でも目を逸らしてしまったら、趙雲が負けてしまうような気がして。
「くっ……」
「どうした!もっと俺を楽しませてみせろ!!」
呂布の渾身の一撃を受け止めた趙雲だが、その威力は見かけ以上に凄まじく、趙雲の足元の土が深く削れるほどだった。
趙雲に加勢をしようと立ち向かった兵卒達は、呂布に触れることも出来ずに弾き飛ばされ、地に叩き付けられてしまう。
悠生は居ても立ってもいられなくて、音もなく弓を形作るも、やはりそれを射ることは出来なかった。
此処から弓を引き、呂布の心臓を狙うべきなのだろうかと考えるが、思い浮かべるだけでも恐ろしい。
未来への道を切り開くために、避けては通れない高き壁。
ゆっくりと息を吐きながら、悠生は弓を構えたが、手が震えて狙いが定まらない。
敵であっても、大好きな無双武将に手をかけたくない…、心の隅にある迷いが、悠生の決心を鈍らせた。
「悠生殿!決して手を出さないでくれ!!」
「だ、だって…趙雲どのがっ…」
「私は…貴方に何度も悲しい想いをさせてきた…故に、今こそ悠生殿のために戦いたいのだ!!」
あちこちに傷を負い、肩で息をする趙雲は、声を絞り出して悠生に想いを伝えてくれる。
劉備のためでも、蜀のためでもなく。
趙雲が命を懸けて戦うのは、悠生のためだと言うのだ。
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