煌めきの祝福
「りょ、りょ、呂布だー!!」
ゲームで恒例となっている兵卒の雄叫びに、悠生はびくりと肩を震わせる。
何が起きたか、なんて考えるまでもない。
呂布が、この先に現れたというのだ。
しかし、本陣を出てからそれほど距離を進んだ訳でもなく、これほど早く呂布との戦闘が始まるなど、悠生の知る展開には無かった。
「呂布だと…!?相手が悪すぎる…悠生殿、貴方は此処に…」
「僕も戦います!!趙雲どのと、一緒に…」
「…では、共に行こう。だが貴方は後ろに下がっていてくれ」
悠生の身を案じる趙雲は、本心では、鬼神・呂布との戦いに関わらせたたくないのだ。
それでも、悠生は着いていこうと決めた。
逃げ出すことは決して、許されない。
自分自身が、許さない。
「皆、私に続け!!死を恐れるな!!」
趙雲の檄に対し、威勢良く応える兵卒達。
呂布を倒さねば、遠呂智とは戦えない。
逆に言えば、呂布を倒すことが出来なければ、遠呂智に勝てるはずがないのだ。
すぐにでも死地となるであろう、呂布が待ち構まえている砦に突入した。
すると砦の中央に、黒光りする巨体を見る。
誰も寄せ付けずに方天画戟を振り回す、呂布の姿があった。
真の三國無双と呼ばれるに相応しい男だろう、その武を越える者は、簡単に現れるはずがない。
唯一無二の存在、遠呂智を除けば。
「ほう、漸く、この俺と一騎打ちをしようという猛者(もさ)が現れたかと思えば…」
趙雲、そして傍らに立つ悠生を真っ赤な瞳で見据える呂布。
フンと鼻を鳴らすと、その無謀を賞賛し、嘲り笑った。
「わざわざ殺されに来たか、悠生、愚かだな!!…だが、咲良の弟に手は出さん。巻き込まれたくなかば、貴様は去れ!!」
呂布の叫びは大地をも震わせ、殺気が風圧となって真正面に向かってくる。
気をしっかり持たなければ、すぐに打ち負かされてしまいそうだ。
だが、彼は悠生に手を出すつもりは無いらしい。
頑ななほどに、呂布は咲良に拘っている。
咲良と共にあった記憶が、最強の武を追及するだけだった呂布を、ここまで抑制しているのだ。
「では私が、お相手致そう」
「はっ、それなりに出来るようだな。だが貴様に俺は越せん!!」
「どうかな。趙子龍の槍、たやすくは折れぬぞ!」
狼狽える悠生を庇うように、趙雲は勇ましく槍を掲げ、呂布に立ち向かう姿勢を見せる。
三国志の英雄である呂布と趙雲の一騎打ち…、物語だけで実現された奇跡的な戦いを今、目の当たりにすることとなる。
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