追憶の子守唄



「ああ!貴殿が、あの阿斗様が全力で欲したという御仁でありましたか!拙者、失礼ながら今し方まで女人かと思っておりましたので…」

「…にょにん…、関平どのは、凄く正直なんですね。僕が男じゃなくても、添い寝してくれましたか?」

「女子であろうとも、悠生殿のような幼子であれば。拙者は幼い者の願いを無視することは出来ぬのです」


悪気も無く、はっきりと断言されてしまい、悠生は些か複雑な心境に陥った。
自分に男らしいところがあるとは思えないし、確かに幼く見えるのかもしれないが、悠生は既に14歳なのだ。
この時代では、元服していてもおかしくない年齢だろう。
それなのに関平は、悠生をずっと子供に思っている。
お子様の阿斗よりも年下に見られ、考えようによっては皆が皆、悠生を子供扱いしているのだ。


(別に…良いけどさ。それにしても関平は…あったかいな)


関平が熱血で真っ直ぐな性格だとは思っていたが、その身から発せられる熱は、体温の下がっている悠生にはとても魅力的なものだった。
ぬくもりを得ようと手を伸ばせば、関平はびくりと体を震わせる。


「もっと、くっついていいですか?」

「そ、それは…拙者、阿斗様に叱られてしまうのでは…」

「どうしてですか?」


すぐに聞き返したら、関平は困ったように口を噤んだ。
よく分からなかったが、関平の不安げな言葉を聞き流した悠生は、衣服の上から、彼の胸に頬を押し付ける。
関平の匂いは姉や美雪のように女らしいものではないが、あたたかかさは文句なしだ。

暫しそうしていると、関平は躊躇いながらも悠生の背に手を回し、おずおずと抱き寄せてくれた。
恐らく、彼の頭の中は、阿斗様の寵愛している人間と床を共にする恐怖(バレれば罰を受けるやもしれぬという不安)でいっぱいなのだろう。
でも、うれしい。
拒否せずに、受け入れてくれたこと。
新しい友達が出来たみたいだ。

世渡りが苦手な自分が、こうして出会ったばかりの男と一緒のベッドに寝ているなんて、奇跡と言っても過言ではない。
蜀の人々は驚くほどに親切な人ばかりで、その優しさに甘えてはいけない、とは思うのだけれど。


「関平どのは、どうして怪我をしたんですか?その…凄く痛そうだから…」

「拙者は、父上と荊州に出陣していたのですが…ご覧の通り、敵の刃を受けました。未熟者の身勝手な行動を父上に咎められ、こうして送り返されたのです」


太い眉を八の字にし、些か困ったように笑う関平だが、悠生にとっては笑い事ではない。
関羽と関平が荊州に出兵している…、つまり、彼らの死の引き金となる"樊城の戦い"がもうじき起きるということだ。
だが、関平だけが成都に戻っているなんて、悠生には状況がよく分からない。
関羽が突出した息子を諫めるため、一時的に戦線を離脱させたということだろうか。


(頑張りすぎて、目の前が見えなくなっちゃった…?違うよね…関平はきっと、大切な人を守ろうとしただけなんだ)


悠生の知る関平は、父を尊敬し、その背を追いかけ武を磨こうとする純粋な若武者だった。
もし、父に活躍する姿を見せたくて突出してしまったのなら、関羽は戦場から追い出すほどに怒らなかっただろう。


 

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