沈み行く陽光



暗雲立ちこめる古志城を、呉蜀同盟軍がぐるりと取り囲んでいる。
両軍は二手に別れ、蜀軍は北から遠呂智の待つ本丸へと進軍、落涙を保護しなければならない呉軍は遠呂智軍の兵器・噴火砲や砦を制圧する役目を担った。

諸葛亮は戦の中で手に入れたという地図を頼りに兵を配置し、同盟軍が勝利するための策を練った。
まずは妲己を精神的に追い詰め、道を開く。
そのためには、速やかに敵武将を倒さねばならない。
妲己の仕掛ける策を全て封じることが絶対条件である。


「悠生殿、私は貴方を戦わせたくないが…」

「ありがとうございます、趙雲どの。心配しないでください。僕は、趙雲どのと一緒に行きたいんです」


笑顔を見せれば、趙雲は一瞬驚いたようだが、柔らかく微笑み返してくれた。

悠生は呉軍の尚香達とは離れ、蜀軍に身を寄せていた。
沢山の懐かしい顔を見た。
彼らは悠生の無事を心から喜び、受け入れてくれた。


(僕の守りたい人たち…阿斗…絶対に、取り戻してみせるよ)


首に下げた美雪の指輪を強く握り、悠生はすぐ其処にある古志城を見据えた。
本当は、怖くてたまらない。
今まで何度となく無闇に死地へ飛び込み、命の危機に曝されてきた。
いつもぎりぎりのところで生き長らえてきたが、次はどうなるかも分からない。
もしかしたら今度こそ、死んでしまうかもしれない。


(それでも…後戻りは出来ない。僕はもう、逃げる訳にはいかないんだ)


俯いてギリッと唇を噛んだら、すかさず趙雲の手が伸び、赤い血の滲む唇にそっと触れた。
未だに、この悪い癖は直っていないのだ。
また怒られる、と思って反射的に後ずさろうとしたが、趙雲は悠生の手首を掴むと、そっと抱き寄せた。
堅い鎧にぶつかるが、趙雲の長い髪が頬に触れ、彼との距離の近さを実感した。


「っ…趙雲どの!?」

「…気にしないでくれ。私の気持ちなど周知の事実なのだから」

「そ、そんな……」


皆に筒抜けと言うのもそれはそれで恥ずかしいものだが、趙雲はなかなか離してくれない。
出陣前に何をやっているのだ、この人は。
普段の趙雲からは考えられない大胆な振る舞いに、悠生はどきどきしてばかりである。
鎧に阻まれて、この速まった鼓動は趙雲には届かないはずだ。
その代わり、顔の赤さは隠せない。
視線を気にし、唇を結んで押し黙る悠生を、趙雲は目を細めて見ていた。


「共に行こう、悠生殿。阿斗様の元へ」

「はい…最後まで、一緒に…」

「最後など無い。これからずっと、未来への道を、共に歩むのだ」


二人のこれからを誓い、未来を約束する趙雲は、きらきらととても輝いて見えた。
力強い言葉で励ましてくれる、頼もしい人。
幸せが、この先に待っている。
このまま、迷いを捨てて突き進んで行けたら良いのに。
いつも素直に、心のままに、彼の手を握れたらそれだけで…良かったのに。

悠生はあえて、茨の道を選んだ。
終わりの見えない乱世を生きる道を。
趙雲のことは好きだ、だけど阿斗のことも、大好きだから。
二人が守ろうとする国を、未来を守りたいのだ。


 

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