沈み行く陽光



にっと笑ってみせれば、遠呂智は「くだらぬ」と呟き、まるで興味を示さなかったが、彼が激しく動揺していることに、阿斗は気付いた。
冷たいだけだった瞳が、僅かに揺れている。
差し出した手が握られることはなく、遠呂智はさっさと玉座の間を出ていってしまった。


「やだ、待ってよ、遠呂智さまっ!!慶次さん、すぐに出陣してもらうから、ちゃんと準備しておいてね。阿斗さんの処遇は後にするわ!」

「ああ、そうしてくれるかね」


逃げるように辞す遠呂智を追い、あっという間に妲己の姿も消えた。
慶次は立ち尽くす阿斗の顔を覗き込み、大丈夫かい、と小さく声をかける。
魔王と初めて対峙した阿斗の、細い肩は小刻みに震えていたが、その表情は、勝ち誇ったかのような笑みがあった。


「前田殿…、何とか言い逃れられましたな」

「ああ、坊ちゃんの演技、真に迫っていたぜ。まさか遠呂智を迎えようとするとは思わなかった。だが…、全て本心なんだろう?」

「私は、前田殿の言葉に従っただけのこと。遠呂智を前に、演技をする余裕などあるはずがない…」


慶次が言うに、悠生は、あの遠呂智に「好き」だと言ってのけたそうだ。
同情でも、哀れみでも偽りでもない。
悠生の言葉が真実だったからこそ、遠呂智は悠生を殺さなかったのだ。
愛情を与えられた経験が無いのか、遠呂智は真っ直ぐな言葉に弱い。
遠呂智の凍てついた心を言葉で攻めること…、悠生を逃がした責を負わないための、最も確実な方法だった。

だから、阿斗は必死になって考えた。
どうすれば、遠呂智を翻弄させられるだろうか。
父ならばどうするか、ということを念頭に置き、改めて思案した結果、世を遠呂智に支配させるのではなく、人の世に遠呂智達を受け入れるべきだ…との答えを導き出したのだ。

異なる存在を受け入れるのも、一つの勇気である。
確かに甘言かもしれない。
有り得ないことだ、と一蹴されて終わりだ。
だが、これは阿斗が見つけた希望への道。
悠生もきっと、理解してくれるはずだ。


「おっと、こうしちゃいられない。俺は最後まで遠呂智の傍に居てやるつもりだ。坊ちゃん、あんたは劉備さんの傍に居てやりな」

「前田殿…私が言えたことではないかもしれませぬが、ご武運を…」

「はっはっ!!ああ、この大舞台、楽しまなきゃ損ってもんだ!!」


ついに、運命の時が訪れる。
友のためにと、堂々と戦場へ去り行く慶次。
阿斗はその背から、目を逸らさなかった。


 

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