偽りなき誠



夜の小牧山城で、悠生は趙雲と再会し、彼との距離は以前よりも近いものとなった。
しかし、趙雲は自分の気持ちを伝えておきながら、悠生の想いを知って尚、言葉にさせてはくれない。


「趙雲、お邪魔してごめんなさいね。ちょっと良いかしら。黄悠に用があるのだけれど」

「は…、私のことはお気になさらず…」


苦笑する尚香の言葉に、僅かながら動揺を見せる趙雲だが、悠生はぱちぱちと瞳を瞬かせた。
姿の見えなくなった悠生を捜し、厩舎まで足を運んだらしい尚香は、少し困ったような、難しそうな顔をしていたのだ。


「さっき、落涙に文を渡したわ」

「あ…ありがとうございます。それで、お姉ちゃんは…」

「とても嬉しそうだったわよ。でもね、落涙、遠慮しているみたいだったけど、本当はあなたに会いたいんだと思う。黄悠はまだ…彼女に会う勇気が出ないかしら?」


そのような勇気など、元より持ち合わせていない。
咲良に宛てた、久遠劫の旋律について纏めた手紙を尚香に託した訳だが、本当は自分の手で渡すべきだったのだろう。
この地に、同じ城の中に咲良が居る。
それを知っていて、臆病な悠生は咲良に会いに行くことが出来ずにいるのだ。


「僕には、お姉ちゃんに会う勇気がありません。合わせる顔だって、ありません…」

「合わせる顔が無いだなんて…落涙があなたを嫌う理由なんて無いでしょう?」

「それでも、今、お姉ちゃんに会ったら…僕は駄目になってしまいそうです」


悠生は実姉である咲良より阿斗を選び、故郷よりも蜀の国を選んだ。
そのために、咲良を見捨てるつもりでいるのだ。
尚香の言葉も確かであろうが、悠生は何を言われても、説得をされても…この気持ちが変わるとは思えなかった。


「そう…急かすつもりは無かったのよ。ただ、私はあなたのことが心配なの。目を離したら傷を作って戻ってくるんだもの、落涙だって気が気じゃないはずよ」

「ごめんなさい…これでも、気をつけているつもりなんですけど…」

「良いのよ、分かっているわ。だけどもう大丈夫でしょう?そうよね、趙雲」


尚香はにっこりと笑って、悠生の隣に立つ趙雲を見た。
すると趙雲は丁寧に拱手し、尚香の考え全てを見越したかのように頭を下げる。


「必ずや、私が悠生殿をお守り致します」

「さすが趙雲ね!本当に頼もしいわ!あともう一つ、伝言があるの。稲の義弟の…幸村って言ったかしら?」


"幸村"と、尚香が口にしたその名に反応したのは悠生だけではない。
趙雲もまた、「幸村殿が…」と険しい顔をし、重々しく呟いた。
かつて成都城で真田幸村と一戦交えた趙雲だが、その場に居合わせた者にとっては、あまり思い出したくない戦いだろう。
妲己の術により、罠に嵌められた二人は意に反した対決をすることとなった。
そんな中、悠生は趙雲を庇って大怪我を負ったのである。
真田幸村の、焔の槍に肩を貫かれて。


 

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